「オーブに、ロード・ジプリールが?」
 何故、とキラは口にする。
「地球軍は現在、ザフトと戦闘中だよね?」
 なのに何故、と続けた。
「負けが見えたんだろう」
 だから、早々に逃げ出してきたのではないか。そう言う意味では、確かな判断力を持っていると言えるか……とバルトフェルドは顔をしかめる。
「だが、これでオーブの立場が微妙になった」
 彼はそう言って付け加えた。
「そうですね……」
 確かに、とキラも頷く。
「それで……カガリは?」
 てっきり、彼女がここにいるとばかり思っていたのに、と口にしながら周囲を見回す。
「あいつなら、今、オーブ軍の上層部と会談中だ。それが終わり次第、こちらに来ることになっている」
 ついでに、反セイラン派の首長達とも、と彼は続ける。
「内密で、ロンド・ミナ様も下りてきているそうだぞ」
 本気で、セイランを追い出して、ブルーコスモスの影響を排除するつもりなのだろう。それは正しいが、少し遅かったかもしれない……とバルトフェルドは呟く。
「いえ……まだ、遅くないと思います」
 だが、それにシンが反論をしてくる。
「シン君?」
「ようは、セイランを追い出してあいつが代表首長に戻れればいいんでしょう? なら、ジプリールの存在を口実にすればいいじゃないですか」
 それこそ、ミネルバと連携を取ればいいではないか、と彼は言葉を重ねた。
「……でも、議長の許可は貰わないといけないのかな?」
 だとすると間に合わないかも、と首をかしげる。
「いや……その位の時間はあるだろう」
 もっとも、セイランが虎の威を借る狐になってしまえば厄介だが……と彼は続けた。
「……アマギさん」
 黙って彼等の会話を聞いていた彼に、キラは呼びかける。
「何でしょうか」
「セイラン関係の施設の場所はわかっていますよね?」
 正確な位置も、と続けた。
「それは……もちろんです」
 それが何か、とアマギは聞き返してくる。
「シン君」
 彼に直接言葉を返す代わりにキラはシンへと呼びかける。
「なんですか?」
「ザフトのパイロットの射撃能力はどのくらいかな?」
「……キラさんほどじゃないと思いますけど……少なくとも、ミネルバのパイロットは、それなりに精密な射撃が出来ると思いますよ」
 それがどうかしたのか、と彼の顔に書いてあった。
 だが、バルトフェルド達にはそれだけでキラが言いたいことがわかったようだ。
「なるほど。第一撃目だけは人のいない場所を狙ってもらえれば、避難する時間があるか」
 それを口実に、カガリが指揮権を奪ってしまえばいい。
 事前に根回しをしておけば、それはスムーズに行われるだろう……とバルトフェルドは言う。
「そうですね。それでも、被害が出るでしょうが……」
 辛そうにキラはそう告げる。
「しかし、それしかないのであれば妥協するしかない。そう言うことだ、キラ」
 もっとも、と自分たちがここで何を言っても意味はない。最後に決断をするのはカガリだ、とバルトフェルドは言い切る。
「そう、ですね」
 確かに彼女が決めることだ、とキラも頷く。
 それでも、もっと良い方法があるのではないか。そんな気持ちも消えない。
 だが、何とかしなければいけないのだ。
 だから、とキラは心の中で呟いていた。



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