セイランに気付かれないようにカガリとキラが軍の掌握にかかっていた頃だ。ザフトと地球軍が本格的に衝突をしたという情報が飛び込んできた。
「……戻らなくていいの?」
 自分の隣でそれを耳にしたシンに、キラはこう問いかける。
「帰還命令、でていないですから」
 それに、自分はまだ、キラの側にいたい。心の中で、シンはそう付け加える。
「君が良いなら、良いけど……」
 でも、きちんと状況を判断して行動してね、とキラは言い返してきた。
「わかってます。第一、俺よりも厄介なのがいますよ?」
 こういった瞬間、彼がいやそうな表情を作ったのが見える。
「……まさかと思うけど……」
「レイの話だと、既に二桁、脱走騒ぎを起こしているそうです」
 そのたびに連れ戻されているのだ、とか。
「いっそ、彼をブルーコスモスとの戦場に放り込めばいいのに、とまで言っていましたよ」
 本気で怒っているな、とシンは付け加える。
「……本当にアスランは……」
 キラがそう言ってため息を吐いたときだ。
「キラ様!」
 アマギが焦ったような表情で駆け寄ってくる。
「どうかしましたか?」
 それにキラは顔をしかめながら聞き返した。
「厄介ごとが持ち上がりました。申し訳ありませんが、ご足労いただけませんか?」
 こう告げる彼の声が強ばっている。
「それは構いませんが……」
 何があったのか、とキラは言外に聞き返す。
「……ここでは……」
 それに、アマギは言葉を濁した。
「シン君は信用できますよ?」
 首をかしげながら、キラがこういう。そう言ってもらえるのは嬉しいと思うが、いいのだろうか、とシンは心の中で呟く。
「それはわかっております。ただ……他の者達には聞かせたくないので」
 アマギはそう言ってくる。
「そうですか」
 その言葉に、キラは顔をしかめた。
「わかりました。そう言うことなら、仕方がありませんね」
 言葉とともに視線をシンへと移動してくる。
「遠慮した方がいいなら、ここにいますけど?」
 そんな彼に向かってこういった。
「いや。多分、君にも来てもらった方がいいと思う」
 それに、キラはこう言い返してくる。
「構いませんね?」
 今度はアマギへと問いかけた。
「もちろんです」
 こちらははっきりと彼は言い返してくる。
「そう言うことだから、安心していいよ、シン君」
 キラの微笑みを見て、無意識に頷いてしまう。
「じゃ、決まりだね」
 行こう、と付け加えると彼は歩き出す。その後を当然のようにアマギが付いていく。
「……やばっ」
 その背中を見つめながら、シンは小さな声で呟いた。
 彼にキスをしたい。そう思ってしまったのだ。同時に、それがどのような感情から来るのかも、だ。
「……アスランのこと、あれこれ言えないかもしれないじゃん、これじゃ」
 でも、今は棚上げしておこう、とシンは自分に言い聞かせる。それよりも先にしなければならないことが多いから。
「よしっ!」
 大丈夫だ。
 この言葉とともに彼はキラの後を早足で追いかけた。



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最遊釈厄伝