「……本当に潜行できるんですね」
 シンは感心したように呟く。
「そうだね。プラントだと必要がないと思われている機能かもね」
 海がないから、とキラは苦笑と共に告げる。
「でも、おかげで海の底がこんなに綺麗だとわかりましたわ」
 ふわりと微笑みながら、ラクスが言葉を口にした。
「そうだね」
 確かに、綺麗だ……とキラも頷く。
「でも……それはここだけかもしれないね」
 戦場では環境が汚染されているという話だから、と小さな声で付け加える。
「それでも、戦争さえ終われば何とでも出来ますって!」
 シンは明るい口調を作ってそう言った。
「プラントの浄化システムを応用すれば、きっと、直ぐに元通りになると思いますよ」
 と言うか、そう信じたいだけかもしれないが。シンは小さな声でそう付け加えた。
「きっとそうなりますわ」
 そんな彼にラクスが頷いてみせる。
「……そうしないと、ね」
 いや、彼女だけではない。キラもだ。その微笑みに、シンはほっとする。
 その時だ。
 目の前の岸壁に小さな穴が空いた。
「あそこ、ですか?」
 それを見逃さなかったシンがこう問いかける。
「そうだよ」
 キラが小さく頷いてくれた。
「この深度なら上からではわからないし……ソナーはごまかしてあるからね」
 だから、セイランにはばれていないはずだ、とキラは微笑む。
「後は、カガリさんの仕事、ですわね」
 ここから先は、とラクスが口にする。
「もっとも、きちんとバックアップはさせて頂きますが」
 彼女はそうも付け加えた。
「そうだね。セイランを追い落とせるだけの材料は集まっているから……後は、カガリが言い負かされないことだけだ」
 でも、ラクスも表に出るのはダメだよ? と彼女に言う。
「ですが……」
「大丈夫。キサカさんが戻ってきているそうだから」
 彼に話をすれば、きっと的確な判断をしてくれるはずだ。何よりもカガリが頭が上がらない人間の一人だし、と彼は続けた。
「それならば、大丈夫だと思いますが」
 後はタイミングだけだろう、とラクスも頷く。
「と言うことだから、シン君はあまり目立たないようにね」
 悪いけど、とキラは続ける。
「大丈夫です。私服でうろつくのは……まずいか」
 かといって、ザフトの《紅》では余計に目立つ。いったいどうしようか、とシンは考える。
「いやじゃなきゃ、モルゲンレーテの作業着を着る?」
 それならば、きっと目立たないだろう。シンにしても気分的に楽なのではないか、とキラは告げる。
「そうですね」
 昔、父もそれを着ていた。その姿を覚えているから、とシンは頷いて見せた。
「じゃ、マードックさんに言っておくよ」
 サイズのこともあるし、とキラは微笑む。
「……でも、僕のでも大丈夫そうだよね」
 予備があったと思うから、とキラは首をかしげる。
「あ。それでいいです、俺」
 むしろ嬉しい、と心の中で呟く。
「そう。なら、用意しておくね」
 キラがそう言った瞬間、ラクスが意味ありげな笑みを浮かべたのがわかった。



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最遊釈厄伝