後少しで、オーブの領海にはいる、と言う場所まで来たときだ。アークエンジェルが進路の変更を打診してきた。
「このまま進むとあちらに察知されるからよ」
 その疑問に、マリューがあっさりと言葉を返してくれる。
「アークエンジェルは海中も移動できるけれど、ミネルバは無理でしょう?」
 さらに彼女はそう続けた。
「……確かに」
 プラントに海はない。だから仕方がないのだが……とグラディスが呟いているのが耳に届く。
「モルゲンレーテの秘密ゲートは海中にありますし」
 そう考えればここで待機していてもらう方がいいのではないか。彼女はそう続ける。
「ですが!」
 それでは、自分たちがデュランダルから与えられた命令を遂行することが出来ない。グラディスはそう言い返す。
「……でしたら、誰かに乗船して頂きましょうか?」
 そちらのパイロットに、とマリューが告げる。  そうすれば、万が一の時にミネルバが車での時間、持ちこたえることが出来るだろう。彼女はそうも続けた。
「ただ、勝手を言わせて貰えば、できればアスラン以外の人にしてくださいます?」
 でなければ、色々と支障が出るから……と言われてグラディスも苦笑を浮かべる。
「わかっていますわ」
 制止をする者がいなければ何をしでかすか想像も出来ないから。そう言って頷いている。
「そうなると、レイかシンよね」
 行かせても大丈夫な存在と言えば、と呟くように口にした。
「ルナマリアでは?」
「役者不足よ。かわいそうだけど……」
 フォーメーションの一翼を担う、と言う点では重要だが、と彼女は続ける。
「かといって、ハイネはね」
 彼がいなくなればアスランを止めることが難しくなる……とため息を吐く。
「あの二人ならどちらを行かせても大丈夫だと思うし」
 さて、どちらに行かせようか。
「シンの方が適任かもしれませんね」
 元とはいえオーブの国民だ。あちらの風習に詳しいだろう……とアーサーが言う。
「そうね。やはりその方がいいわね」
 たまにはいいことを言うわね、と付け加えたグラディスには深い意味はなかったのだろう。
 だが、アーサーからすればショックとしか言いようがない言葉だったようだ。がっくりと肩を落としている。
 もっとも、それをグラディスが気にしている様子はない。
「それで構いませんか?」
 真っ直ぐにマリューを見つめるとこう問いかけている。
「えぇ。彼なら既にこちらになじんでいますから、大丈夫だと思いますわ」
 キラも彼は気に入ってるようだし、とマリューは頷いて見せた。
「それに、彼が口が堅い人間だ、と知っていますもの」
 さらに彼女は付け加える。
「では、そうさせて頂きますわ」
 確かに、ミネルバが直接乗り込むのはまずいだろう。だから、とグラディスは判断したのではないか。
「メイリン!」
 そう考えていたときだ。グラディスが彼女の名を呼ぶ。
「シンを呼び出せばいいのですね?」
 即座にこう聞き返す。
「そうよ」
 急いでね、と頷かれて「わかりました」と言葉を返す。
 そのままコンソールへと向き直ると端末へと手を伸ばした。
「……今は待機時間だから、いるとすればパイロット控え室かしら」
 こう判断を据えるとシンを呼び出すために操作を開始した。



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最遊釈厄伝