確かに、アークエンジェルの食堂には予想もしていないメニューが並んでいた。
「すげぇ。うどんまである」
 シンは思わず歓声を上げてしまう。
「……本当にここは軍艦なんですか?」
 レイがおそるおそるというように問いかけている。
「元はね。でも、今はちょっと違うから」
 どちらかと言えば、今の感覚は《家》に近いのかもしれない。キラはそう言い返す。
「僕たちが軍に属していた期間よりもそうでなかった期間の方が長いから」
 その間、自分たちが帰る場所はここしかなかったから……と彼は付け加える。
「そうなんですか」
 これ以外いう言葉を見つけられない。
「まぁね。他には、バルトフェルド隊長がはまったって言う理由もあるかな」
 苦笑と共にキラは言う。
「ともかく、食べたいものがあったら注文して」
 今は時間がずれているから好いているし……と彼は続けた。
「じゃ、遠慮なく」
 こういうときに、自分が動かないと他のメンバーは遠慮するよな。そう思いながらシンは行動を開始した。
「きつねうどんください」
 こういえば、直ぐにおくからでてくる。久々に感じるだしの匂いに、思わず頬がゆるんだのは仕方がないことではないか。
 これを契機に、他のメンバーもそれぞれ思い思いの料理を注文した。
「……キラさん、それだけですか?」
 しかし、キラが注文したのは飲み物だけだった。
「うん。ちょっと食欲がなくてね」
 微苦笑を浮かべつつ彼はこういう。
「だって……キラさん、パイロットですよね?」
 パイロットは食事を取るのも仕事ではないか。言外にそう付け加える。
「そう言われるんだけどね。食べられないから」
 でも、カロリーだけは出来るだけ取るようにしているのだが……と彼は続けた。
 その言葉から、まともに食事をしていないのではないか、と不安になってしまう。しかし、キラに直接そう言っても、きっと彼は笑ってごまかすような気がする。
 本当にどうしたらいいのだろうか。
 そんなことを考えながらシンはうどんをすすった。
「……うまい……」
 無意識のうちにこんなセリフが唇からこぼれ落ちる。
「でしょ?」
 自分のことではないだろうに、キラは嬉しそうな表情を作った。
「確かに、おいしい……」
「ですね」
 他の二人の言葉に、キラの笑みがさらに深まる。
 やっぱり、キラは笑っていてくれる方がいい。その方が魅力的だ、とシンは思う。でも、再会してからのキラは何か重荷を背負ったままのような気がする。
 それは何なのだろうか。
 そう考えても直ぐには思い浮かばない。それがわかるほど、自分はキラのことを知らないのだ。
 だが、と心の中で付け加える。全部ではないが、その一部は想像がつく。
「……やっぱ、問題はアスランだよな」
 キラにとって一番のガンになっているのは、彼の存在ではないか。少なくとも、自分が知っている範囲では、だ。
「何が?」
 その呟きが聞こえたのか。キラがこう問いかけてくる。
「キラさんと親しくなるのの障害です」
 無意識にこう言い返す。
「今日も、来る途中であれこれ言われましたから」
 ここまで口にしたところでシンはようやく自分が何を口にしていたのかを理解する。
「まったく、アスランは……どうしてこうなのかな」
 昔はここまで酷くなかったのに、とキラはため息とともに口にした。
「いつからお知り合いだったのですか?」
 すかさずルナマリアが問いかける。
「いつからって……四歳の時かな? 初めてあったのは」
「そんなに小さい頃からですか?」
 その事実には驚きを隠せない。だが、だからあんな言動を取るのか、とどこか納得してしまう。
 その後も、ルナマリアがあれこれアスランのことを聞いているのは何なのだろうか。少しは考えればいいのに、とあきれずにはいられなかった。



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