どうやら、デュランダルが護衛として連れてきたのはシンともう一人だけのようだ。
「……アスランはいないようだな」
 ほっとしたようにカガリが呟いている。
「まぁ、まだ、安心できないがな」
 アスランのことだ。どこかに隠れている可能性も否定できない。何度もそれで困った事態に追い込まれたことか……と彼女は続ける。
「それは……たんにカガリが逃げ出そうとしただけじゃないの?」
 キラは苦笑と共に言い返す。
「そんなことはないぞ」
 緊張を和らげようとしているのか。カガリは即座に言い返してきた。
「ちゃんと理由があって席を離れようとしても邪魔してくれたんだ。あいつは」
 別に逃げ出そうとしたわけではない、と彼女は付け加える。
「はいはい。そう言うことにしておくよ」
 それよりも、と言いながらキラは視線を移動した。
「……わかっている」
 デュランダル達が顔が確認できる距離まで近づいてきている。これ以上近くなれば、自分たちの会話が聞かれかねない。別に聞かれても困らないが、やはりふざけるのはやめておこう。
「……って、あれはシン・アスカじゃないか」
 あいつが護衛だと? とカガリがいやそうに呟く。
「あぁ、本当だ。マルキオ様経由で無事だとは聞いていたけど……ケガもないようだね」
 よかった、とキラはキラで微笑む。
「……まぁ、お前がそう言うなら、そう言うことにしておいてやるよ」
 しかし、シンはアスランとも相性が悪かったはず。いったいどのような状況になっているのか。ちょっと興味がある、とカガリは囁いてくる。
 だが、キラはそれに言葉を返すことが出来なかった。
 シンの隣にいるもう一人の少年。
 その顔には見覚えがある。
「……まさか……」
 だが、そんなはずはない。心の中でそう呟く。
 彼は、あの時、間違いなく、死んだはずだ。自分がこの手でとどめを刺したからよく覚えている。
 何よりも、目の前にいる相手はシンと同年代にしか見えない。
 しかし、だ。彼の生まれ方を思い出せば、自分の中に芽生えた疑念を消すことも出来ないのだ。
「どうかしたのか、キラ」
 そんな彼の様子に気がついたのだろう。カガリが問いかけてくる。
「……何でもないよ」
 こういっても、彼女が信じてくれないのはわかっていた。同時に、彼女がそれ以上追及して来ないだろうと言うことも、だ。
「お久しぶりですね、姫」
 このような形でお会いするとは思ってもいなかった……とデュランダルが声をかけてきた。
「そうだな」
 確かに、あちらで別れたときにはこのような状況になるとは思わなかった……とカガリも頷き返している。
 恐らく、この会談が終わるまでは彼女は問いかけてこないだろう。そして、終わった頃には忘れている可能性が高い。
 だが、自分はそういうわけにはいかない。
「ただの偶然なら、いいんだけど」
 そうでなかったとするならば、どうすればいいのだろう。
 そもそも、彼が自分をどう思っているのかもわからない。そう心の中で呟いたときだ。
「キラ・ヤマト君?」
 デュランダルが声をかけてくる。
「何でしょうか、デュランダル議長」
 こう言い返しながらも、彼もひょっとしてあのことを知っているのだろうか……と思う。
「私の護衛が、どうかしたのかな?」
 苦笑と共に彼がこう問いかけてくる。それに、どう答えるべきか、と一瞬だけ悩んだ。
 しかし、どうせ直ぐにわかることだ、と思い直す。
「彼が、ラウ・ル・クルーゼとどのような関係なのか……と思っただけです」
 この問いかけを口にした瞬間、少年だけではなくデュランダルも表情を強ばらせたのがわかった。



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