久々に見たフリーダムの動きは、あの日のままだった。
 いや、あの日以上だった、と言うべきか。
「すごいな……」
 あれだけの混戦の中、ただの一人も殺すことなく撃墜をした。そして、その機体が味方に保護されるまで、きちんとフォローをしていたなんて……とシンは呟く。
「……普通、出来ねぇだろう」
 あれだけの混乱の中で、といいながら髪をかき上げる。
 だが、キラはそれを実行したのだ。
 それだけの実力を彼は持っている。そして、同じくらいの強さで戦うことを厭うている。
 なのに、彼は戦場に姿を見せた。
 それはどうしてなのか。
「やっぱ、あいつのせい、だよな」
 あの場にはフリーダムだけではなくストライク・ルージュもいた。
 あの二人が共に姿を消したことは知っている。だから、きっと、彼女がキラに頼んだのではないか。
「……絶対、あいつがワガママをいったに決まっている」
 それをキラは受け入れたのだろう。
「……でも……」
 これで、アークエンジェルは地球軍に狙われることになる。状況によっては、ザフトも彼等を敵と認定をするのではないか。そして、その追撃を自分たちが命じられる可能性がある。
 その時、自分はどうするのだろう。
「俺は、戦えるの、か?」
 守りたいと思っていた彼と、と自分に問いかけるようにシンは呟く。
 直ぐに『無理だ』という結論に達してしまう。
 しかし、それを上が認めてくれるかと言えば難しいなどと言うものではない、と言うこともわかっている。
「どうすればいいんだろう」
 シンがこういって顔をしかめたときだ。艦内を甲高い音が響き渡る。
「……集合?」
 いったい何があったのか。
「……まさか……」
 出撃命令が出たのだろうか。それとも、と思いながら、腰を浮かせる。
「無視するわけにはいかねぇし……」
 仕方がないか。どうするかは、その時に決めればいいだろう。そう呟くと歩き出した。

 いつの間に乗り込んでいたのだろう。そこにはデュランダルがいた。
「とりあえず、オーブの姫と話をしないといけないだろうね」
 そう言うことだから、あちらに連絡を取って欲しい。そうアスランに命じている。
「ですが……」
 自分は、と口にしながら、彼は意味ありげな視線をシンへと向けてきた。どうやら、まだ、メールアドレスを教えていないと言うことに引っかかりを持っているらしい。
「おや。アークエンジェルに連絡は取れないのかな?」
 別に、カガリ個人に連絡を取って欲しいとは言っていないが……とデュランダルは言い返す。
「それは……可能ですが……」
 あくまでも、キラに連絡を取りたいのだ、と彼の表情が告げている。そのこだわりがどこか異常だと感じられるのは錯覚だろうか。
 もっとも、自分だって似たようなものかもしれない。
 だが、自分が壊れていると自覚できているだけ少しはましなのではないか。そんなことも考えてしまう。
「なら、お願いをしよう。あちらが受け入れてくれれば、私が直接足を運ぶ予定だ」
 彼等の真意が知りたい。
 そして、許されるのであれば協力をして貰いたいと考えている。この戦争を終わらせるためには、彼等の力が必要だ。そう彼は続けた。
「……わかりました……」
 仕方がない、とアスランは表情で告げる。いくら彼でも、プラント最高評議会議長デュランダルの命令には逆らえないのだろう。
 同じような状況になったら、自分はどうなのだろうか。
 いっそ、キラの元に駆けつけてしまおうか。そんなことも考えるが、許可が出る可能性は低い。
 だから、せめてアークエンジェルが敵だ、と認識されないようになればいい。
 心の中でそう呟いていた。



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