オーブ軍の指揮官は、あのユウナ・ロマ・セイランだという。
「あいつは何を考えているんだ?」
 戦場が確認できるぎりぎりの場所にアークエンジェルを止めながら、カガリはこう呟く。
「あれでは、オーブ軍は捨て駒じゃないか」
 ある意味、それは予想できていたことだ。しかし、想像だけの状況と実際に目にするのとでは、衝撃の大きさが違う。
「そう、だね」
 恐らく、それが地球軍の目的なのだろう。
 そして、ユウナ・ロマはそれに乗せられていると言うことか。
 あの男が素直にそれに乗せられていると言うことは、地球軍の指揮官がよほどそう言ったことになれているのだろう。彼の機嫌を損ねずに手綱を握れる人間……と考えた瞬間、ある人物の顔が脳裏に浮かぶ。
 しかし、彼は既にこの世にはいない。
 この艦を守って光の中に消えたはず。
 自分の力が足りなかったから……と考えた瞬間、キラは胸に痛みを感じる。
 しかし、これを他の人たちに悟られるわけにはいかない。そんなことを考えていたときだ。
「……あれは……」
 カガリが小さな呟きを漏らす。
「どうしたの、カガリ」
 どうやら自分の内心は気付いていないらしい。その事実に胸をなで下ろしつつ、キラはそう問いかける。
「あそこのMSが見えるな?」
 そう言いながら、カガリはモニターの一点を指さした。
「……あれは、地球軍の?」
「そうだ。もっとも、開発したのはザフトだがな」
 自分たちがデュランダルと会談をしようとしたときに、連中に奪取された機体だ……と彼女は告げる。
「にしては、動きが変だな」
 何かに気がついたのか。バルトフェルドが呟きを漏らす。
「あの動き……前の戦いの時、似たような動きをする機体がありました」
 ブルーコスモスの人体実験の結果だ、と聞いた記憶もある……とキラは顔をしかめながら付け加える。
「可能性はあるな」
 影で何かをしていたとしてもおかしくはない。バルトフェルドはそう言った。
「あんなのがうようよと出てくると、思い切り厄介だ」
 さらにそう付け加える。
 確かに、とキラも思う。
 コーディネイターとほぼ同レベルの身体能力を持っている兵士が前線に出てきたら、どうなるだろうか。人数的には、今でもコーディネイターの方が少ないのだ。
 しかし、そのためには多くの人々があの実験の被害者となると言うことでもある。
 そんなことを認められるはずがない。しかし、どうしたらいいのか。そう考えながら、キラが顔をしかめたときだ。
「……それで、カガリさん」
 ラクスが口を開く。
「どうなさいますの?」
 いえ、と彼女は言い換える。
「どうされたいのか、教えてくださいませ」
 このまま見ているのか。それとも、と彼女は続ける。
「私は……」
 カガリは何かを言いかけて口をつぐんだ。あるいは、これを告げていいものかどうか、悩んでいるのかもしれない。
「構わないぞ、カガリ」
 いいから言え、とバルトフェルドが口を開く。
「私は、この戦闘を終わらせたい」
 これ以上、オーブの軍人が無駄死にするのを見ていたくない。彼女はそう続けた。
「無駄だと言うことは、わかっているな?」
 確認するようにバルトフェルドが問いかけた。
「今の戦闘が終わっても、またすぐに別の場所で戦闘が起きるぞ」
 それもわかっているな、と彼はカガリを見つめる。
「わかっている……その時は、また、止めに行けばいいだけだ……もっとも、みんなが協力をしてくれれば、の話だが……」
 自分だけではどうしようもない。それはわかっている。だから……と彼女は視線をゆっくりと移動させ多。そして、最後にキラのところで止める。
「頼む。私に力を貸してくれ」
 そして、言葉とともに頭を下げた。



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