そのころ、キラ達が乗り込んだアークエンジェルはスカンジナビア王国領海内の海底に潜んでいた。
「……いい加減、私をオーブに帰せ!」
 そうすれば、きっと、あの馬鹿げた同盟を破棄してやるから……とカガリは口にする。
「無理だよ、カガリ」
 そんな彼女に、キラはできるだけ冷静な口調で言い返す。
「君が戻っても、あの同盟を破棄できない。逆に、それが確固たるものになるように利用されるだけだ」
 そうなってしまえば、オーブの民は大西洋連合の都合の良いように利用されるだけではないか。
「違うの?」
 逆に聞き返せば、彼女は言葉に詰まっている。
「そうですね。わたくしもキラの意見に賛成です」
 さらにラクスが口を挟んできた。
「離れているからこそ見えるものがあるのではありませんか?」
 国内にいてはわからないことも、国外から見ればわかるときがある。特に、他国からの評価は自国にいてはわからないものではないか。
「それを知っているいないでは、今後の行動で大きな違いが出てくると思いますわ」
 客観的に見られるようになれば、どこを改善すべきなのか。それがわかるようになってくる。だから、と彼女は言葉を重ねた。
「今しばらく、わたくしたちに誘拐されたままになっていてくださいませ」
 冗談交じりの言葉に、カガリは思いきりため息をつく。
「本当にお前らは……」
 とんでもない行動を取ってくれて、と彼女は口にした。
「じゃ、カガリはあの人と結婚したかったの?」
 キラはこういいながら首をかしげる。
「カガリさんがあの人と結婚されていたなら、絶対に、キラに『カガリさんのために愛人になれ』ぐらいのことは言われたでしょうね」
 実際、断られても断られてもキラの顔を見に来ていた変態さんですから……とラクスがため息をつく。
「ラクス……いくらなんでも、それはないと……」
 思うんだけど、とキラは首をかしげる。
「でも、アスランという前例がおりますわ」
 他にも、キラに恋心に近い感情を抱いている人間はいるだろう。変態と後者との違いは、キラの意志を尊重するかどうかだけだといっていい。
「だからといって……」
「……それは、本当なのか?」
 キラが言葉を続けるよりも早く、カガリが口を開く。その声音に、ものすごくヤバイ響きが含まれているような気がするのは、キラの錯覚ではないだろう。
「バルトフェルド隊長に確かめてごらんになります?」
 彼が傍で聞いていたはずだ。ラクスがそう言い返す。
「……そうか……」
 そうなのか、と彼女は笑いながら指を鳴らし始める。
「そう言う馬鹿なことを考えていたから、あんなにも私との結婚を急いだんだな、あいつは」
 キラを狙って嫌がったとは、と呟きながら、今にも傍にある何かを殴りつけそうだ。
「……狙われていたのは、カガリだの方だと思うよ……」
 ぼそっとキラは口にする。しかし、その言葉は彼女たちの耳には届いていないらしい。
「カガリさんを人質に取れば、キラが言うことを聞かずにはいられない。そう考えていらしたのでしょうね」
 セイランだけではなく、ブルーコスモスが……とラクスが言った。
「その可能性は高いだろうな」
 キラがいれば、ザフトにも負けない。それは間違いないだろう。
 しかし、キラがそれを望んでいるかと言えば話は別ではないか。
「……何とかして、あいつらをオーブから放り出してやる」
 絶対に、とカガリが言った。
「ならば、証拠を集めるのが一番ですわよね」
 オーブの国益を損ねていたという、とラクスが告げる。
「わかっている」
 しかし、その間に連中がとんでもないことをしでかさなければいいのだが……とカガリはため息をつく。
「どうでしょうか……」
 既に、大西洋連合はプラントへの宣戦布告をしている。
 オーブ軍も、間違いなくその中に組み込まれるだろう。
「……そうだな……その覚悟だけはしておかなければ、いけないか」
 カガリが悔しげに呟く。そんな彼女を支えるにはどうすれば一番いいのか。キラにはまだわからなかった。

 オーブ軍が地球軍と共にディオキアへ向かったと連絡が入ったのは、それから直ぐのことだった。



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