どれだけ気に入らない相手でも、その実力だけは認めざるを得ない。
 だから、戦闘中の指示だけは耳を貸していた。
「……シン!」
 しかし、ルナマリアからすれば、それでは不十分だと思えるらしい。
「あんた、もう少し考えなさいよ」
 アスランに対する言動を、と彼女は付け加える。
「なんでだよ」
 むっとする表情を隠さずに聞き返す。
「戦闘中の指示には従っているだろう」
 必要だと思えることにも、と付け加えた。
「そう言うことじゃないのよ、あたしが言いたいのは」
 それだけではダメなのだ、と彼女はため息をつく。
「じゃ、ルナは、間違っているとわかっていても、偉い人間の言葉なら下がえって言うのか?」
 自分が従わないのは、アスランがあまりにも理不尽なことを言ってくるからだ……とシンは言い返す。
「それに、あいつが俺に聞きたがっているのは、俺じゃなくて別の人間のプライベートだぞ」
 しかも、相手から『教えていい』と言われていないのに……といいながら、彼女を見つめる。
「ルナなら、それでも教えるんだな?」
 そのせいで、大切な人たちと縁を切られる可能性があっても……とさらに言葉を重ねた。
「それとこれとは別問題でしょ」
「同じだよ。あいつが俺に望んでいるのはそれだし、だから、俺はあいつが気に入らないんだよ」  許可がもらえたら教える。そう言っているのに、アスランは『今すぐ教えろ』と言って譲らない。そんな自分勝手な相手の言葉なんて聞きたくない。
「第一、俺にとって、あの人達は家族同然なんだぞ。その人達を万が一でも危険にさらせるか!」
 自分は助けにいけないのに、と続けた。
「それとも、俺がザフトを脱走してもルナが何とかしてくれるのか?」
 その時には、と逆に問いかける。
「出来るわけないでしょ、そんなこと」
「だったら、余計な口を挟むな! 俺だって、出来ることと出来ないことを考えて行動しているんだから」
 今すぐ飛び出したいのを我慢しているんだ、と続ける。
 なのに、あいつはしようと思えばそれが出来るのだ。もっとも、したところで地球軍に見つかって目的地にいる人たちを危険にさらす結果になるのではないか。
 今まで我慢していたせいだろうか。
 言葉が次々とあふれ出す。
「……シン……」
 その勢いに、流石のルナマリアも返す言葉を見いだせないのだろう。困ったように視線をそらした。
「そう言うことだから。あいつがあきらめない限り、俺は態度を改める気ないし」
 もう口を挟まないでくれ。そう言うと、さっさと歩き出す。
 それにしても、どうしてルナマリアはいきなりこんなセリフを言い出したのだろうか。
「別に、仲良くしなきゃいけないってわけじゃないだろう」
 戦闘中の指示を無視したというのであれば問題だろうが……と思う。
「ルナ達も、日とのプライベートにまで口を挟むなよな」
 それも、最初から悪者は自分だと決めつけていたし……とため息をつく。
 彼女たちからすれば《アスラン・ザラ》は対戦の英雄なのかもしれない。だからと言って、一緒に学んできた自分よりも優先するというのはないだろう。どちらに味方をするにしても、きちんと話を聞けよ……と言いたくなる。
「マルキオ様やキラさん達なら、ちゃんと話を聞いてくれるだろうな」
 それから、どうすればいいかを考えてくれるはずだ。
「何か、本気で会いたくなってきた」
 それも、マルキオたちにではない。キラに、だ。
 だが、アスランとは合わせていけないような気がする。でも、とふとあることを思いついてしまった。
「そういや、あいつもキラさん達と一緒にいるんだよな」
 カガリ・ユラ・アスハが、と呟く。
 もしも彼女が、今のアスランを見たらどのような行動に出るだろうか。
「……それだけは、少し気になるかな」
 だが、リスクが大きすぎる。だから、想像するだけにしておこう。そう呟いた。



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