だが、そんなことで悩む必要はなかったらしい。彼の方から連絡をくれたのだ。
「……マルキオ様とカリダおばさん。それに子供達はサハクの所だってさ」
 詳しい場所までは聞いてないが、とシンはぶっきらぼうな口調でアスランに告げる。
「みんなが無事なら、それでいいってことだろ」
 とりあえず、連絡は今まで通りに取れるから。そう言うときびすを返す。
「キラ、達は?」
 そんな彼の背中をアスランの声が追いかけてくる。
「マルキオ様からのメールには、何も書いてありませんでしたよ」
 知っていたとしても、誰が教えるか……とシンは心の中で付け加えた。
「なら、マルキオ様のメールアドレスを教えてくれ」
「お断りします。それは俺の判断で出来ることじゃないですから」
 必要なら、あちらから連絡を寄越すだろう。そうでなかったとしても、一度彼に確認してからでなければ教えられるか……とシンは言い返す。
「それが礼儀じゃないんですか?」
 普通は、とさらに言葉を重ねた。
「……確かに、そうだが……」
「なら、失礼します」
 許可をもらうまでは、絶対に教えない。心の中でそう呟くと、シンはそのまま彼から離れていく。
「……何だよ、あいつ」
 やっぱり、気に入らない……とシンは大股に彼から離れながら呟く。
「自分は何をしても許される、って考えてないか?」
 デュランダルであれば、まだ許されるかもしれない。しかし、彼はそんな無理は言わないと思う。
「……ザラって言えば、前の戦争までは有力者だったんだっけ、そう言えば」
 あの戦争を泥沼化させた原因が、ザラもと最高評議会議長だったのではないか。ふっとそんなことを思い出す。
 きっと、そのころのプラントではたいていの望みは叶えられたのかもしれない。
 そして、オーブにいたときにはカガリの傍にいた。彼女もやはり、その気になればどんなワガママを言っても叶えられる可能性の高い人間だ。
「だから、あいつは、何でも許されるって思っているのか?」
 そう言う世界にしか生きていないから、とシンは顔をしかめる。
「だから、マルキオ様もあいつに連絡先を教えないんじゃないのか?」
 キラ達のことだってそうだ。
 居場所がわかれば、絶対に押しかけていくに決まっている。ザフトの最新鋭MSがそんな行動を取っていれば、地球軍が気付かないはずがない。
 そのまま、アークエンジェルが攻撃対象になる可能性だってあるではないか。
 いくらフリーダムがいても、支えきれるかどうか。
 それ以上に、キラがそれを望むかどうかもわからない。
「あの人、戦うことを望んでないだろう」
 キラ本人の口から聞いたことはない。
 だが、じぶんの記憶の中のキラからそう推測できるのだ。
「あいつの方が、それはよくわかっているんじゃないのか?」
 なのに、何故……とシンはあきれたくなる。
「傍にいたって、何を望んでいるのかわからなきゃ、意味ないだろうに」
 きっと、本人はその事実もわかっていないのではないか。
 あるいは、誤解をしているか、だ。
「ルナには悪いけど……あいつのどこがいいのか、全然わからねぇ」
 どこが『いい男』なんだよ、とそうも呟いてしまう。
「あいつに比べたら、レイの方がずっといい男じゃん」
 自分が、とは言わないのは、自分自身がどれだけ欠陥だらけなのかを自覚しているからだろう。だが、それはもう治しようがないような気もする。
 それは、家族を失ったあの時に原因があるから、だ。
 あの時の傷が癒える日はない。
 だから、仕方がない……と開き直る。
 こんな自分でも良いと言ってくれる人間だけが、自分を認めてくれればいい。そうも考える。
「きっと、あいつは認めてくれないだろうけど」
 でも、キラはそうは言わなかった。だから、それで十分だ。
「やっぱ、会いたいな」
 キラに、とシンは呟く。
「とりあえず、無事かどうかだけ、マルキオ様に聞いてみよう」
 ついでに、お情けでアスランにメルアドを教えていいのかも……と付け加える。だが、それはあくまでも任務の後だ。そう呟くと、大股に廊下を進んでいった。



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