そこにいたのは、ここにいるはずのないった。
「あんた、そこで何をしているんだよ!」
 思わず、シンはそう叫んでしまう。
「やめなさい、シン。その人は《FAITH》よ!」
 だが、そんな彼を諫めるかのようにルナマリアがこういってきた。
「《FAITH》?」
 まさか。そう思いながら、よくよく相手を確認すれば確かにその印を付けている。しかし、それだからこそ気に入らない。
「……何と言われようと構わないがな……」  俺のことは、と言いながら相手は歩み寄ってくる。
「今現在、必要だからこの地位を預かった。それだけだ」
 あいつらを保護するために、と彼は付け加えた。
「でなければ、何を言われてもザフトに戻るなんて考えなかったさ」
 さらにこう続ける。
 つまり、彼は彼なりに何か考えてこういう選択をしたのだろう。だが、ならば、どんな手段を使っても彼等から離れなければよかったのに。そう思うのは自分だけなのか……とシンは呟く。
「……何とお呼びすればいいのですか?」
 周囲にレイの冷静な声が響いた。
 その言葉の意味がわからない。
「なんてって……こいつはアレックス……」
 ディノ、だろう……とシンは続けようとした。
「アスラン・ザラだ」
 しかし、それを遮るように彼は言葉を口にする。
「……へっ?」
 何を言っているのか、と思う。しかし、ルナマリア達は違うらしい。
「やっぱり……ジャスティスのパイロットだったアスラン・ザラだったのですね、あなたは」
 華やいだ声でそう言っている。
「……わけわかんねぇ」
 いったいどうしてそうなったのだろうか。
「マルキオ様に聞けばわかるのかな」
 そのあたりの事情は、とシンは呟く。彼であれば、きっと、わかりやすく説明をしてくれるだろう。
 そう考えてこう呟いたときだ。
「お前は、マルキオ様に連絡が取れるのか?」
 驚いたようにアスランが聞き返してくる。
「多分。少なくとも、この前の時は返事が来たけど?」
 それがどうかしたわけ? とシンは逆に問いかけた。ずっと一緒にいたアスランの方が連絡が取れないわけがないだろう、と心の中で付け加える。
 しかし、実際に取れなかったらしい。
「……そうか……」
 自分が知っているアドレスは、既に凍結されていたからな……とアスランはため息と共に言葉を口にした。
「シン」
 レイが何かを確認するように呼びかけてくる。それだけでわかるのは、付き合いの長さのためだろうか。
「メールを出すのは構わないけどさ。いいのか? 許可取らなくて」
 艦長の、と続ける。
「それは俺が取る。だから、直ぐに確認をしてくれ」
 アスランがこういってきた。
「それって、命令?」
 何か、アスランに言われるとやる気がなくなる。そう思いつつ、確認の言葉を口にした。
「……シン」
「だって、こいつのためだと思うと、やりたくなくなるんだよ」
 諫められても、とシンは言い返す。
「第一、そのせいでマルキオ様達に何かあったら困るし」
 その可能性がないとは言い切れない。だから、とシンは続ける。
「命令だ、と言えば確認するのか?」
 忌々しそうにアスランが聞き返してきた。
「もちろん、拒否するに決まっているだろう」
 彼等の安全が確保されない状況で連絡なんて取れるか! とシンはいう。
「俺は、直ぐに助けにいけないんだぞ」
 さらに付け加えた言葉に、アスランは唇を噛む。しかし、反論をしてこないのは同じようなことを考えているからかもしれない。
「とりあえず、艦長に相談をして……何かいい方法がないかどうかを検討してみてから結論を出してもいいのではないか?」
 そんな彼等の間を取り持つかのように、レイが口を挟んでくる。
「わかった」
 確かに、自分も彼等の無事を確認したいし……とシンは素直に頷く。
「仕方がないな」
 納得していない、と言う様子でアスランはこういう。
「すまないが、誰か艦長の所に案内をしてくれないか?」
 さらに続けられた言葉に、ルナマリアが直ぐに立候補をした。
「……シン」
 遠ざかっていく後ろ姿を見つめながら、レイが諫めるように彼の名を呼ぶ。
「仕方がないだろう。俺はザフトの一員なんだから……」
 自由に彼らを守りにいけない。だから、と言い返す。
「そうだな」
 それも事実だ、と彼は頷いてくれた。



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