その光景を、シンはミネルバのモニターで見つめていた。
「……フリーダム……」
 結婚式場からカガリをさらったのは、間違いなくあの機体だ。と言うことは、パイロットは《キラ》だろう。
「何を考えているんだよ」
 あんなことをしたら、オーブにもいられなくなる。それは彼にもわかっていたはずだ。
 それとも、と直ぐに続ける。
 こんな馬鹿な行動を取らなければいけないような事態があったのか、だ。
 しかし、この状況で本人に連絡を取るのはまずいような気がする。
「確認しようと思えば、出来るけど……」
 この前、マルキオやカリダのメールアドレスを聞いてきた。キラに直接連絡を取れないことも、彼等ならば構わないのではないか。
 だが、自分たちも移動中だし……とため息をつく。
「どこかの基地に寄港しているなら別だろうけど」
 そこからであれば、偽装工作も出来るだろう。しかし、ミネルバ内では無理だ。
「でも、本当に何があったんだろう」
 キラとカガリが恋人同士だ……と言うならば納得できる。しかし、二人の様子から判断してそれはあり得ないと思う。
 では、自分の知らない別の理由があるのだろうか。
「どちらにしろ、キラさんが無事ならばそれでいいんだけど」
 マルキオがいる以上、カリダや子供達は絶対に大丈夫だ、と信じられる。
 でも、オーブ軍を敵に回したキラ達はどうなのだろうか。
「レイに、相談するか」
 そうしたら答えを教えてくれるだろうか。それとも、彼でも難しいのかはわからない。だが、話をしているうちに答えが見つかるかもしれない。
「うん。そうしよう」
 自分にそう言い聞かせると、シンは早速レイを探し始めた。

 その直ぐ後だ。
 オーブと大西洋連合との同盟が発表された。同時にプラントへの宣戦布告もされる。
 しかし、だ。
 その場に、カガリ・ユラ・アスハの姿はない。そして、ロンド・ミナ・サハクの姿も、だ。
 オーブの代表首長ではなく、セイランの主張でしかないウトナがそれを行っている。ちまり、大西洋連邦と同盟を結びたいと考えていたのは、セイランだけだったのではないか。
 こう考えたものも少なくはない。
「……これが、キラさんが阻止したかったことなのかな」
 だとするならば、成功したと言えるのか。それとも……とシンは呟く。
「どちらにしろ、彼等と連絡が取りたいよな」
「そうだな」
 いきなり背後からレイの声が響いてくる。
「レイ?」
 いったい、いつから聞いていたのか。そう思いながら、シンは振り向く。
「できれば、そうして貰った方がいいのかもしれない。もっとも、本国でどう判断されているのか、わからないが……」
 しかし、このままではまずい。それだけはわかる……と彼は呟く。
「だよな」
 あそこに《ラクス》と言う少女がいた。そう告げた瞬間、レイが珍しくも驚愕を顕わにしたことも覚えている。直ぐ後でその理由を教えて貰ったが、そんなことをしたとは思えないほど柔らかな物腰の相手だった。
 しかし、キラと彼女たちが一緒にいることは否定できない。
 オーブの若獅子カガリ・ユラ・アスハザフトの歌姫ラクス・クラインがフリーダムのパイロット一緒にいる。その三人が大西洋連合の手に渡ってはまずい。そう考えているのだろう。
「あいつらの手に渡った三機のこともあるしな」
 ユニウスセブンの一件から一度も姿を見せていないあれらが動いたら厄介としか言いようがない。
 いや。連中がモルゲンレーテを手に入れたのだ。さらに厄介なものを作ってくれる可能性もあるのだ。
「本当、どうすればいいんだろうな」
 自分たちは。レイは呟くように口にする。
「……わからない」
 ただ、大切なものを守れればいい。シンはそう言い返す。
「そうだな」
 レイが言葉とともに頷いた時だ。
「二人とも、ここにいたの!」
 息を切らせながらルナマリアが飛び込んでくる。
「何かあったのか?」
 レイが静かに問いかけた。
「いいから、来て!」
 来ればわかる、と彼女は続ける。
 いったい何なのだろうか。そう考えながら、シンはレイへと視線を向けた。しかし、彼もわからないというように首を横に振ってみせる。
「ともかく、行ってみよう」
 自分の目で確認をするのが一番だ。そう言われて、シンも頷いてみせる。
「こっちよ」
 二人の考えがまとまったのを確認して、ルナマリアが歩き出した。



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