しかし、ユウナ達の行動はキラの想像の範疇をさらに超えていた。
 それがわかったのは、その晩のことだった。
 何か、不穏な気配が伝わってきたような気がしてキラはベッドの上に体を起こす。
「キラ。起きているな」
 まるでそれを待っていたかのようにバルトフェルドが顔を出した。
「着替えてリビングに来い」
 だが、この一言を遺すと直ぐに姿を消す。つまり、それだけ厄介な状況なのか。そうかんがえると同時に、キラはベッドを抜け出す。
 手早く着替えると、机の引き出しを開ける。そこにはあの日からずっと身につけている父の形見のディスクと小型の銃があった。一瞬ためらった後、ディスクだけを内ポケットに入れる。自分が銃を持っていても何の役にも立たない、と判断したのだ。
「トリィ、おいで」
 そのまま、いつも傍にいてくれる彼に声をかけると歩き出す。そうすれば、直ぐに肩になじんだ重みが下りてくる。
 それに一瞬だけ微笑むと、キラは足早に歩き出した。
 リビングへ行けば、そこにはもう、皆が集まっている。
「……敵、ですか?」
 子供達の耳に届かないように、キラはマリューに問いかけた。
「わからないわ。今、バルトフェルド隊長が確認しに行っているけど」
 その前に、子供達を安全な場所に移動させましょう。そう言って彼女は微笑む。
「はい」
 ならば、地下だろうか。
「お兄ちゃん……」
 そう考えていれば、子供の一人がすがりついてくる。
「大丈夫だよ。バルトフェルドさんもマリューさんも強いから」
 こう言い返しながらも、こういうときに役に立たない自分に苛立ちを感じてしまう。いくらMSで戦えても、これでは意味がないのではないか。そうは思うが、子供達にその感情をぶつけるわけにはいかない。
「でも、邪魔にならないように移動しようね」
 そうすれば、バルトフェルドが本気を出せるから。微笑みながら、そう言えば、子供は頷いてくれる。それに頷き返しながら、キラはその小さな体を抱き上げた。
 その時だ。
 何かいやな気配を感じて、その場に伏せる。そのキラの頭の上を、銃弾をおぼしきものが通り過ぎていった。
「キラ!」
 ラクスの悲鳴が聞こえる。
「大丈夫」
 しかし、どこから……と思ったときだ。別の銃声が周囲に響く。
「みんな、こちらだ!」
 次に続いたのはバルトフェルドの声だ。ならば、今のは狙撃手を彼が撃った音だろうか。
 そう考えながらも、キラは子供を抱き抱えたまま立ち上がる。
「みんな。こっちだよ」
 そのまま、彼もかけ出した。

 しかし、連中がMSまで持ち出すとは思わなかった。
 いくら頑丈なシェルターでもMSの攻撃にいつまでも耐えきれるものではない。
「……ラクス。鍵を」
 その時だ。何かを考え込んでいたバルトフェルドがこう告げる。
「ですが……」
「今のキラなら、大丈夫だ」
 ためらうラクスに、彼はさらに言葉を投げかけた。
 その言葉の意味はわからない。だが、ラクスの視線にキラは微笑み返す。
「大丈夫だよ。僕に出来ることがあるなら、それをするだけだ」
 それが力を持っているものの義務ではないか。それに、このまま、何もせずに大切なものを失ってしまう方が辛い。
 そう思いながら、頷いて見せた。
 それで意を決したのだろう。彼女はハロへと手を差し出す。素直にそこに収まったハロが大きく口を開けた。そこに、金色に輝く鍵が二本ある。
「来い、キラ!」
 それを受け取ったバルトフェルドがキラを呼んだ。
「はい」
 いったい、何があるのか。そう思いながら、キラは素直に駆け寄る。
「同時にロックを解除しないと、開かないからな」
 そう言いながら、彼は壁際にあるある場所を指さす。その時だ。目の前の壁が宇宙船の外殻に使われているものだ、と気付いたのは。
「……まさか……」
 ここに、あれがあるのだろうか。そう言えば、誰もあれのことを口にしなかったが、と思う。
 しかし、あれがあるなら、自分はみんなを守れる。
 結局、自分はそれしかできないのか。
「キラ」
「準備できています」
 そう言いながら、キラは静かに装置の穴に鍵を差し込んだ。

 その日、失われていた蒼い翼が再び空へと羽ばたいた。



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