キラが地球軍の接近に気がついたのはその日の夜のことだった。それを聞いたバルトフェルドが直ぐにミネルバへと連絡を入れる。
 彼等の方も何かを感じ取っていたのか。素直に出航してくれた。
「とりあえず、これで大丈夫かな」
 キラはほっと胸をなで下ろす。
 しかし、問題はそれで終わらなかった。
 その日から、カガリと連絡が取れなくなったのだ。
「……何が……」
 あったのか、とキラは頬をひきつらせる。彼女が――アスランがプラントに行ってからは特に――自分たちの言葉を無視するなどと言うことはなかった。連絡を入れたときに席を外せなくても、その後で必ず彼女の方からこちらに通信を入れてきたのだ。
 しかし、最近はそれもない。
 ミネルバの一件も、自分たちの独断で行ったと言っていい。
「せめて、マーナさんに連絡が付けばいいんだけど」
 彼女にも連絡がつかないのだ。
 これが、他の誰かであればいくつか理由が思いつく。しかし、マーナはアスハが個人的に雇っている人間だ。勝手にどこかに行くとは思えない。何よりも、彼女がカガリから離れるはずがないのだ。
 そう考えれば、答えは一つしかない。
 彼女はカガリと一緒にいる。そして、二人とも外部と連絡が取れない場所にいるのではないか。
「……まさか……」
 どこかに閉じ込められているのではないか。
 だとするならば……と考えたときだ。
「キラ」
 ラクスの静かな声が耳に届く。
「ラクス?」
 どうかしたの? とキラは聞き返す。
「バルトフェルド隊長が『ちょっと来て欲しい』だそうですわ」
 どうやら、厄介ごとが起きているらしい……と彼女は顔をしかめる。
「わかった。今、行く」
 カガリのことだろうか。それとも、と思いつつキラは腰を上げる。
「……キラ」
 そんな彼に、不安そうにラクスが呼びかけてきた。
「大丈夫だよ、ラクス。大丈夫」
 微笑みを浮かべると、キラはそう口にした。自分が、そう考えていないのに、だ。
「キラ……」
 そんな彼の様子に、ラクスは少しだけ顔をしかめる。
「本当に、大丈夫だよ」
 言葉とともに彼女の肩を叩く。そして、そのまま廊下へと出た。
 あるいは、彼女が自分に言って欲しい言葉はこれではないのかもしれない。しかし、自分にはこう告げるのが精一杯だ。
 なぜなら、彼女は守るべき存在だから……と心の中で呟く。
 彼女が強い人間だ、と言うことはよく知っている。それでも、一度、そう認識してしまえば翻すのは難しい。
「……ごめんね……」
 無意識のうちにキラはこう口にする。それはラクスの耳にも届いているだろう。しかし、彼女は何も言ってこない。
 きっと、それは、彼女と自分の気持ちがずれているからだ。
 彼女だけではない。アスランやカガリともずれてきているように思える。
 どうしてなのかはキラ自身にもわからない。ただ、あの日々が関係しているのだろう、と言うことだけは推測できた。
 そして、自分が抱えているあの秘密も、だ。
「どうしたらいいのか、僕にもわからないんだ」
 でも、できれば彼女たちには知られたくないと思う。
「……いつか、話せる日が来るかもしれないけど……」
 今は、その時ではない。それに、優先しなければいけないこともあるのではないか。
 そんなこと考えながら、キラはバルトフェルドの元へと向かう。
「バルトフェルドさん、キラです」
 中にいるであろう彼に、キラは呼びかける。
「入れ」
 この言葉を待ってキラは中へと足を踏み入れた。
「どうかしたのか?」
 彼の顔を見た瞬間、バルトフェルドがこう問いかけてくる。
「ちょっと……失敗しちゃったようで、ラクスを悲しませてしまいました」
 彼に隠そうとしても無駄だ。そう思ってキラはそう告げる。
「それも仕方がないか」
 まだまだ、みんな若いからな……と彼は苦笑と共に言った。
「それはまず後にしておけ。必要ならフォローしてやる」
 それよりも、と彼は表情を引き締める。
「ミネルバと地球軍が接触をしたぞ」
 やはり、連中は彼等の情報を向こうに売っていたらしい。
「……そう、ですか……」
 いったい、何をしようとしているのか。キラはそう呟く。
「わからん。だが、俺たちも覚悟はしておいた方がいいだろうな」
 この言葉に、キラは小さく頷いて見せた。



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