「すまん、アスラン……」
 カガリがこういって頭を下げる。
「仕方がないだろうな」
 この状況では、とアスランは言い返す。
「確かに、俺以外に今、あちらに行ける人間はいない」
 だが、と彼は続けた。
「あいつらがあちらの状況を気にしているとは思えない。間違いなく、俺をここから排除する口実だな」
 つまり、連中はこれから本気でしかけてくると言うことだ。アスランはそう断言をする。
「わかっている」
 忌々しいが、とカガリは吐き捨てるように言った。
「私とキラだけならば、御しやすい、と思っているんだろうな」
 キラの頑固さは身にしみていると思ったのに、と彼女は付け加える。自分のことについて言わないのは、きっと棚に上げたいから、だろう。
「だが、何をするつもりなんだ?」
 あいつらは、とカガリは顔をしかめた。
「いくらでも思いつくが……だからこそ、逆に絞り込むのが難しいな」
 それだからこそ、厄介なのだが……とアスランは呟く。
「とりあえず、何かあったなら、マルキオ様の元へ走れ」
 それが出来なくなるような状況は考えたくない。だが、そうなったときにはキラが動くだろう。
「何があっても、連中にとって都合がいい書類へはサインするな」
「あぁ……」
 代表首長であるカガリのサインがあるとないとでは、後々の対処が変わってくる。そして、オーブの理念を守るためには、中立を保ち続けなければいけないのだ。
「わかっている」
 だから、安心しろ。カガリはそう言って笑った。

 どうやら、バルトフェルドはバルトフェルドでモルゲンレーテに用事があったらしい。彼の来るまで、シンはその門まで送ってもらった。
「死ぬなよ、と言いたいところだが……軍人ではな」
 難しいときもあるか、と彼は苦笑を浮かべる。
「それでも一日でもいいから、長く生き延びろ。いいな」
 そうしていけば、最後まで生き残ることが出来るだろう。
「まぁ、一番いいのは、無理をしないことだが」
 じゃぁな、少年……と言い残すと、エレカを発進させた。その先には何があっただろうか。
「……ずいぶんと、気にかけてくれたような気がするけど……」
 子供達のためだろうか。それとも、と思いながら、歩き出す。彼の手には、カリダが持たせてくれた焼き菓子がしっかりと握られている。
「とりあえず、これはばれないようにしないと」
 見つかったら、全部食われかねない。いずれなくなるとわかっていても、大切に食べたい。そう思いながら、シンは指示されたルートを進んでいく。
「レイ?」
 ミネルバがあるデッキの入り口のところで立っている友人の姿を見つけてシンは反射的に時計を確認した。
「まだ、時間前、だよな?」
 では、どうしたのだろうか。
 首をかしげながら、シンは彼へと歩み寄った。
「シン……」
 ほっとしたような表情で彼が呼びかけてくる。と言うことは、彼は自分を待っていたのか。
「まだ、大丈夫だよな?」
 時間は、と思わず続けてしまう。
「いや、そうではない」
 しかし、彼は首を振ってみせる。
「ブルーコスモスの構成員らしい人間に襲われかけたクルーがいる」
 もっとも、モルゲンレーテの人間がフォローしてくれたおかげで大きな問題にならなかったが……と彼は続けた。
「他のものには直ぐに連絡がついたが、お前だけは居場所がわからなかったからな」
「……悪い……」
 どうやら、無意識に通信機のスイッチを切っていたのかもしれない。そう思いながら謝罪の言葉を口にする。
「いや。無事だったなら、それで構わない」
 レイはそう言って微笑む。
「……知り合いに会ってたから……あぁ、土産も貰ってきた」
 一緒に食べるだろう? と付け加えれば彼は頷く。
「そうか。よかったな」
 そして、こういってくれた。



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最遊釈厄伝