シンの訪問を、カリダも子供達も喜んでくれた。
「ゆっくりしているの?」
 彼女は直ぐにこう問いかけてくる。
「……夕方には戻らないと、いけないです」
 流石に、無断外泊は無理だろう。そんなことをしたら、脱走したと考えられてもおかしくはない。
「あら、そうなの」
 途端に、カリダは残念そうな表情を作る。
「……すみません……」
 反射的にシンはこういう。
「……母さん……彼も、もう、一人前なんだから、責任があるんだよ」
 小さなため息とともに、キラが言葉を口にした。
「それに……今日だけじゃないでしょう。彼と会えるのは」
 だから、と言えば、カリダは小さく頷いて見せた。
「なら、少し早めにお夕食にするわね。だから、それだけは食べていってね」
 そして、こう告げる。
「それは、遠慮しませんけど……」
 いいのだろうか。これから、ハルマのディスクの中身を確認することになっているのに……とシンは思う。
「いいのよ。それはキラのためにあの人が遺してくれたものだし……私はそれこそ、まだ見られるわ」
 だから、いいの……と彼女は微笑む。
「キラが、自分だけでは不安だというなら、バルトフェルドさんかラクスさんに同席して貰えばいいわ」
 今、ここにいるメンバーならその二人が適任だろう。彼女はそう続ける。
「わかっているよ、母さん」
 バルトフェルドに声をかけるから……とキラは苦笑と共に言い返す。
「絶対よ」
 言葉とともに、彼女は立ち上がった。恐らく、夕食の支度に行くつもりなのだろう。
「じゃ、行こうか」
 それを見送ってから、キラがこう声をかけてくる。
「俺も同席していいのですか?」
 彼の言葉に、シンは驚いたように聞き返す。
「だって、君も気になるでしょう?」
 中身が、とキラは微笑む。
「ずっと持っていてくれたからね。見る権利は君にもあるよ」
 興味がないのであれば、子供達と遊んでいればいい。彼はそうも付け加えた。
「……キラさんは『いい』と言ってくださるなら、見たいです」
 シンはそう言い返す。
「おいで」
 それに、微笑みながらキラは頷いて見せた。しかし、その微笑みに違和感を感じるのはどうしてなのだろう……と思う。
 しかし、それを問いかけていいものか。自分はまだ、そこまで親しくないし……とシンは心の中で呟く。
 だが、直ぐに思い直す。ようは、これから親しくなればいいのではないか。そのためにも、一緒に行動できるのであれば行動した方がいい。そう考えて、彼の後を追いかけた。  いや、それがなくても一緒に行っただろう。
「……バルトフェルドさん」
 不意にキラがそう呼びかけた。そうすれば、ドアの影から壮年の男性が姿を現す。しかし、その気配を自分は感じられなかったのはどうしてだろう。無意識のうちに気がゆるんでいたのだろうか、とシンは顔をしかめた。
「そちらがマルキオ様が言っていた少年か」
 それに構わずに、彼はそう言って笑う。
「俺の存在に気がつかなかったことは、気にしなくていい。経験が違うからな」
 さらにこう付け加えられた。
 しかし、それも気に入らない。だが、それを言っても意味がないこともわかっていた。
「準備は?」
 黙っているシンの前で、キラは彼に問いかけている。
「出来ている。こっちだ」
 そう言いながら、彼は別の部屋へと姿を消す。それにキラも着いていく。シンもついていこうとして、一瞬足を止めた。本当にいいのか、と悩んだのだ。
「ほらほら、少年。君も早くは入りたまえ」
 しかし、中から声をかけられる。どうやら、構わないらしい。だから、と中へと足を踏み入れた。



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