教えられた場所に、確かにそれらしいものがある。
 しかし、とシンは顔をしかめた。
 整備された光景は、どこかしらじらしい感覚をシンに与えた。それでも所々にある傷跡は、ユニウスセブンの落下の時に出来たものだろうか。
 それでも、この場には三年前のあの光景を思い出させるものはない。 「……こんなに綺麗にして……」
 自分たちが後ろめたいから、なのか。それとも、あの日の光景をなかったことにしたいのかと思いながらゆっくりと足を進めていく。
「どれだけ多くの人間が、ここで死んだと思っているんだ」
 あの日の光景を、自分は忘れていない。
 だから、ここの光景がきれい事のように見えるのだろうか。
「そう言えば、あそこはどこだったんだろう」
 家族やハルマが死んだ――いや、殺された場所は。そう思いながら周囲を見回す。しかし、周囲の光景が変わってしまったせいでわからない。
「くそっ!」
 それすらも自分から奪ったのか。そう考えながら、視線を慰霊碑らしいものへと移した。
「……誰、だ?」
 黒い服を身につけた、自分と同年代の人影がその前にたたずんでいる。
 さっきまでは、そこに誰もいなかったのに。ひょっとして、他のルートもあるのだろうか。
 それを使ったということは、あの人物はこの地に住んでいる人なのだろう。ならば、とシンは歩き出す。
 あまり、ここにいる人と接触はしないで欲しい……と言われている。だが、シンの場合、元はオーブの人間だ。だから、会いたい人がいるなら内密に会ってきて構わないらしい。
 これはカガリの好意なのか。それとも、と悩んだ。
 でも、子供達やカリダ、それに許されるならキラとマルキオには会いたい。
 先日の災害でこちらに移動してきていると聞いているから、訪ねていけば誰か一人には会えるだろう。
 問題なのは、自分がその家の場所を知らないと言うことだ。
「マルキオ様の家の場所も、知っているかな」
 聞けば教えてくれるだろうか。
 しかし、と心の中で呟く。慰霊碑に来たと言うことは、彼もまた、ここで大切な人を亡くしたのかもしれない。
 そんな人の祈りを邪魔していいものかどうか。
「……でも、俺には時間がないし……」
 我慢してもらうしかないよな、と自分に言い聞かせるように呟く。
 しかし、ここはあまり被害がないと思っていたが、それでも波はかぶってしまったのだろう。慰霊碑の傍に植えられていた花々はかわいそうなくらいしおれている。
「結局、どれだけ花を植えても、人が吹き飛ばすんだ」
 無意識のうちに、声を荒げてしまったのか。慰霊碑の前にいた人物が顔をこちらに向けた。
 その瞬間、印象的なすみれ色の瞳が顕わになる。
「……キラ、さん?」
 まさか、と思いつつそう呼びかける。
「君は、僕を知っているの?」
 そのまま、首をかしげると、こう問いかけてきた。
「……ここで、会ってます……三年前に」
 ゆっくりと彼の方へと歩み寄りながら、シンはそう告げる。
「それに……カリダおばさんからも、色々と聞かせてもらいましたし……」
 この言葉に、彼は何かを思い出した、と言うように目を丸くした。
「ひょっとして、君がシン君?」
 プラントに行った、と付け加えられて、頷き返す。
「……どうして、ここに?」
「先日、ここに来たので……今日は、ようやく外出許可をもらえたから……」
 ここに自分の家族もハルマもいると思ったし、と口にする。
「それに、うまくいけば、キラさん達に会えるかと……」
 できれば、キラには会いたかったから、とシンは続けた。
「僕、に?」
 何故、とキラは問いかけてくる。
「あいつらから、何も聞いていないんですか?」
 その理由はカガリとアレックスも知っているのに、とシンは言い返す。
「……そうなの?」
「そうです」
 シンの言葉に、キラは小さなため息をつく。
「後で、確認しないと、ね」
 本当に、とあきれたように彼は続ける。
「一応、カリダおばさんも知っているはずなんですが……」
 そう言いながら、シンはポケットからあのディスクを引っ張り出す。
「これを、ハルマさんから預かりました。あなたがフリーダムで去った後に」
 この言葉に、キラは驚きを隠せないという表情を作る。
「そうか……君が、あの時父さんの隣にいた子なんだ」
 無事でよかった。そう言って彼は直ぐに笑みを浮かべてくれる。
「……中身は?」
「見てません」
 気になるけど、とシンは言い返す。
「やっぱり、君はいいこだね」
 そう言いながら、キラは周囲を見回す。
「また、ここに花を植えないと……そのことも相談しないといけないし……来る?」
 子供達が喜ぶよ。そう言われて、シンはしっかりと頷いて見せた。



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