セイランの問題をどうやって解決したのか。数日後、シン達に上陸許可が下りた。
「やっとかよ」
 ほっとしたようにヴィーノが口にする。
「そう言うなって。俺たちの寄港自体があちらにしてみれば厄介ごとなんだろうし」
 しかも、今はこんな状況だから……とヨウランが必死になだめているのが見えた。
「ここはプラントじゃない。オーブなんだぞ」
「……それは、わかっているけどなぁ」
 しかし、たまにどこかに寄港したときに外に出るのだけが楽しみなんだぞ……とヴィーノは言い返している。
「……ここがオノゴロでなきゃ、もっと早く、許可が出たかもな」
 シンは小さな声でそう呟く。
 オノゴロのモルゲンレーテはオーブにとって最大の機密であるはず。そして、そこでなければミネルバを修理できないというのも事実だ。だかからこそ、カガリがここに自分たちを連れてきたのは正しいと言える。
 しかし、ザフトの基地と同じ待遇を受けられるはずがない……と言うのも事実だ。
「お前ら!」
 その時だ。周囲にエイブスの怒声が響き渡る。
「チーフ……」
 しまった、と言うようにヴィーノが頬をひきつらせたのが見えた。
「どうやら、外出するのが不満らしいな」
 そんな彼に大股に歩み寄りながらエイブスはすごみのある笑みを浮かべる。
「仕事はたくさんあるぞ」
 手を伸ばすと、彼はヴィーノの襟首を掴む。
「チーフ! そんな……」
 慌てて逃げ出そうとしたときにはもう遅い。
「連帯責任だ」
 さらにヨウランまでもが彼に掴まっている。
「……やばっ」
 このままでは自分にまでとばっちりが来かねない。実際、何度かにたような状況で休暇を潰された経験があるのだ。
「行かなきゃないところがあるのに」
 その言葉とともに、シンは後ろ向きに歩き出す。それも、エイブスの注意を惹かないように気配を殺して、だ。
 彼等の姿が見えなくなったところで、シンは初めて体の向きを変える。そして、まさしく脱兎のごとくかけだした。

 世界は、いったい、どこへ向かおうとしているのか。
「……何か、いやな予感がする……」
 今回のことで、大西洋連邦よりの国々に『プラントを撃つべし』という機運が高まっているらしい。それに後押しをされるように、セイランがカガリに無理難題を言っていると聞いている。
 しかも、だ。
 アスランを彼女から遠ざけようと動いているという。
「……僕は、どうすればいいんだろう……」
 みんなの前では、決して不安そうな表情を作らない。そんなことをすれば、みんなが不安を感じるはずだ。だから、最近はいつでも笑みを浮かべているようにしていた。
 しかし、時にはそれが辛くなることもある。
 そう言うときは、一人で出歩くようになったのは、いつからだっただろう。
 みんなに心配をかけているような気がする。それでも、自分には一人になる時間が必要なのだ。
 それに、ここには来なければいけなかった。
 こちらに越してきてから気にはなっていたのだ。
 そう思いながら、ゆっくりとそれに近づいていく。
「……よかった……慰霊碑は、無事だったんだ……」
 あの日、ここで死んだ者達の墓はない。一人一人のそれを建てる余裕がなかったのだ。
 いや、それだけではない。
 誰が死んだのか、それすらも確認できなかった。
 セイランは、自分たちが宇宙にあがっている間、この地に手をつけようとはしなかった。そして、戦後、ようやく自分たちに余裕が出来たときにはもう、誰が誰なのかわからなくなっていた。
 それでも、死者を悼む場所は必要だ。
 だから、せめて……と建てられたのがこの慰霊碑だった。
「……父さん、僕も、母さんも無事だから」
 そう言いながら、そっとその表面を撫でる。そのまま、さりげなく周囲を見回す。そうすれば、しおれた花が確認できた。
「……潮をかぶっちゃったんだね」
 植え直すにしても、土を入れ替えないといけないのではないか。そう思ったときだ。
 誰かがこちらに近づいてくる気配がした。



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