艦内から出ることが出来ない。その事実に、シンは苛立ちを感じていた。
「何なんだよ……」
 まったく、と彼は続ける。
「確かに、俺たちはプラントの人間かもしれないけど、さ」
 今は、とこっそりと付け加えた。
「ついでに、ザフトだから、か」
 警戒されているのか、と呟く。
「それもないわけじゃないわね」
 その瞬間だ。いきなり背後から声がかけられる。
 いったいいつの間に、と思いながら振り返った。同時に身構える。
「……えっ?」
 しかし、目の前にいたのは柔らかな空気を身に纏った女性だった。
「ごめんなさいね。脅かしちゃったかしら」
 でも、確認したいことがあったの……と彼女は続ける。
「確認、ですか? 俺に?」
 いったい、何を……とシンは目をすがめた。
「子供達がね。カガリ様の言っている《シン・アスカ》が自分たちの知っている《シン兄ちゃん》なのかどうかを知りたがっているの」
 昨日、彼等にあったときに頼まれちゃったのよ……と彼女は続ける。
「……子供達って……」
「マルキオ様に引き取られている子達よ」
 これがその証拠ね、と言いながら、彼女は脇に挟んでいたファイルから一枚の写真を取り出す。そして、シンの方へとさしだした。
「子供達からよ」
 あなたがプラントに行く前に渡せなかったから、本当に本人だったら渡して欲しいと言われたの。そう続ける。
「ありがとう」
 確かに、みんなで映したものだ……とシンは頷く。
「よかったわ」
 言葉とともに、彼女はシンの手に写真を渡す。
「それと……これは独り言なんだけど……外にね、セイランの関係者がいるのよ。それを排除するまでは大人しくしていてくれると嬉しいわ」
 小さな声で彼女は告げた。何かあったら困るから……とも。
「……そっか」
 どうやら、自分がいない間にさらに厄介なことになっているらしい。そう考えて、シンは顔をしかめる。
「その間に、この船は私たちがきちんと直すわ。だから、大人しくしていてくれると嬉しいわね」
 シンに何かあれば、子供達が悲しむから……と告げると彼女はきびすを返す。
「あの」
 その背中に向けて、シンは思わず声をかけてしまう。
「何かしら?」
 動きを止めて彼女は聞き返してくる。
「あの人も、元気ですか?」
 無意識のうちに唇から言葉がこぼれ落ちた。
「……あの人?」
「……カリダおばさんと、キラ、さん……」
 前者はともかく、後者はあまり人前で口にしない方がいいのではないか。そう考えて、シンは小さな声で告げた。
「あら。カリダさんだけではなくキラ君とも顔見知りなのね」
 柔らかなな笑みと共に彼女は二人の名前を口にする。
「二人とも元気よ」
 子供達と一緒にこちらに来ている、と彼女は教えてくれた。
 ならば、会えるのだろうか。
 もっとも、今のままではどうしようもないが。それでも、会いたいと思う。会ってこれを渡さなければいけない。
「そうですか」
 よかった、ととりあえず微笑みを浮かべる。
「いいこね、あなたも」
 そんな彼に彼女は笑みをさらに深めた。
「では、またね」
 この言葉を遺すと、今度こそ彼女は離れていく。
「……あの人の、名前を聞くのを忘れていた……」
 この事実にシンが気付いたのは、その背中が見えなくなってからのことだった。



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最遊釈厄伝