その日、世界の空が赤く染まった。
 次に襲ってきたのは、想像もしたことがない大きな災害だった。
 一地域だけではなく大きさの差はあれほぼ全地球規模でのそれに、立ち向かえる者は誰もいない。ただ、すこしでも早くそれが収まってくれるように祈るのが精一杯だった。
 同時に、これがユニウスセブンで命を落とした者達の怒りの大きさなのか。そう考えたものも少なくはない。
 しかし、それ以上に、これからの生活をどうすればいいのか。そちらを心配するものが圧倒的に多かった。
 そんなときだ。
 ユニウスセブンを落下させようとするザフトのものと、それを阻み、少しでも破砕しようとする地球軍との戦いの映像が流された。
 それが真実ではないとしても、大西洋連合とセイランにプラントを非難する口実を与えたことだけは事実だった。

 オーブへの被害は大きくはなかった。
 それでも、決して大きくはない島には大きな爪痕を遺していた。
「……お家、なくなっちゃった……」
 シェルターから出たキラ達の前に、慣れ親しんだ建物も、精魂こめて大切に育ててきた草花も存在していない。ただ、破壊された跡が残っているだけだ。
「僕たち、どこに行けばいいの?」
 その光景は戦争を思い出させるからか。子供達は皆不安を隠せないという表情を作っている。
「大丈夫ですよ」
 そんな彼等を安心させるかのようにマルキオが微笑む。
「ここのお家はなくなってしまいましたが、他のお家の中に使えるものがあるはずです。そちらに引っ越しをしましょう」
 そこでお花を植えて野菜を育てていけばいいのではないか。
「……バルトフェルドさん達は無事かな」
 そんな彼の言葉を聞きながら、キラはこう呟く。
「確認しておくか」
 彼の言葉にノイマンがこう言ってくる。
「ノイマンさん?」
「通信機を預かっているからな。あちらも、こちらの状況を知りたいだろう」
 特にマリューは心配しているはずだ。
「……そう、ですね」
 確かに、彼女ならばそうだろう。キラは小さく頷く。
「いっそ、皆で彼等の所に行くのもいいかもしれませんね」
 その会話を聞いていたのか。マルキオが口を挟んできた。
「マルキオ様……」
「あちらは本島ですからね。色々と都合も良いでしょう」
 確かに、今の状況では荷物を運んで貰うことも難しいだろう。だから、あちらに行った方が色々と動きやすいのではないか。
「確かに……あちらの方が人も多いですから」
 子供達にとってもその方が安心できるのではないか。キラもそう言って頷く。
「では、そのことも逢わせて連絡を取ります」
 この言葉とともにノイマンは上着の内側から通信機を取り出した。本当に用意はいい、とキラは心の中で呟く。
「私には見えないのですが……それほど被害は大きいのですか?」
 その彼の動きを目で追っていたキラに、マルキオがこう問いかけてくる。
「はい。家は完全に流されています。恐らく、津波が来たのだと……」
 いったい、どこにどれだけの被害が出ているのか。ここはこの程度ですんだが……とキラは顔をしかめる。
「でも、破片の向きから判断をして、本島には大きな被害はないような気がします」
 海岸線と平行だったのではないか。
「……確かに、それは不幸中の幸いですが……」
 それ以外の土地ではどれだけの被害が出ているのか、と彼は呟く。
「……多分、バルトフェルドさんが調べているとは思いますが……」
 これでオーブの立場はかなり微妙になったのではないか。
「今、カガリがいないのはまずいかもしれない……」
 セイランがどう出るのか。それがわからないだけに、とキラは顔をしかめる。
「大丈夫でしょう」
 それにマルキオがこういってくれた。
「カガリ様がご無事かどうか。まずはそれを確認しなければいけません。そして、ロンド・ミナ様のことも無視できないはずです」
 だから、カガリが戻ってくるまで緊急のこと以外で動かないはず。下手に動けば彼等は自分で自分の首を絞めることになると知っているから……と彼は続けた。
「だと、いいのですが……」
 今も、何かをしでかしているような気がしてならない。それは、ユウナのせいだろうか。しかし、自分に何が出来るだろう。そう考えるキラだった。



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