誰かに呼ばれたような気がして、キラは空を振り仰いだ。
「どうしたの、キラ」
 そんな彼の仕草に気がついたのか。カリダが問いかけてくる。
「何でもないよ、母さん。僕の気のせい」
 即座にそう言葉を返す。しかし、自分を呼ぶ声はさらに大きくなっているような気がする。
 それはどうしてなのか。
 考えても答えは出ない。
「……気のせいなら、いいんだけど……」
 だが、何か理由があるのではないか。
 ならばそれは何なのだろう。
「そろそろ、シェルターに避難した方がいいかもしれない」
 改めて答えを探そうとしたときだ。ノイマンがこう声をかけてくる。
「……そうですね。それがよいでしょう」
 マルキオも彼の言葉に同意をした。
「お空が、落ちてくるの?」
 不意にこう問いかけられる。
「大丈夫だよ。お空は落ちてこない。宇宙にいる人たちが何とかしてくれるから」
 ただ、完全には出来ないだろう。予想外のことがおきるかもしれない。だから、安全な場所に隠れていようね、とキラは微笑む。
「キラの言うとおりですわ」
 大丈夫、とラクスも頷いてみせる。
「ここには、マルキオ様やキラだけではなく、ノイマンさんもいてくださるでしょう?」
 それに、困ったときには間違いなくバルトフェルド達が来てくれるはずだ。だから、何も心配はいらない、とラクスは微笑みを浮かべた。
「シェルターに入ったら、お歌を歌ってあげますわ」
 この言葉に子供達は心を動かされたらしい。
「本当?」
「本当に、お歌を歌ってくれるの?」
「たくさん?」
 次々にこう問いかけている。彼等のその表情からは、今までの不安は綺麗にぬぐい去られていた。
「……ここで一番強いのは、ラクスか……」
 ノイマンが小さな声で呟く。
「そうでなければ、カガリです」
 自分やアスランは立場が弱い、とキラは苦笑と共に言い返す。
「特に、僕はみっともない姿を見せていますから」
 子供達にしてみれば頼りにならないと思っているのだろう。もっとも、それでも嫌われているわけではないが……と続ける。
「ヤマトの場合は、仕方がないと思うがな」
 それに関しては、とノイマンが口にする。
「君がどれだけすごかったのか。それは俺たちがよく知っている。それで十分だろう。彼はそう言うと、キラの背中を叩いた。
「そうですね」
 確かに、それで十分だ。キラは自分に言い聞かせるようにそう言う。
「ともかく、移動しましょう。ラクスさんにお願いをするのは、それからでもいいのではありませんか?」
 マルキオが柔らかな笑いと共に言葉を口にした。
「そうですね。それからゆっくりとリクエストを取るというのでいいかな、ラクス」
 すこしでも早くシェルターに落ち着いた方がいいのではないか。そう考えてキラは同意をする言葉を告げた。
「大きな子は、小さな子達をお願いね?」
 さらにカリダが指示を出す。
「はい」
 子供達が一斉に返事をする。ひょっとして、最強なのは己の母カリダなのだろうか。どちらにしても、彼女が父を失った悲しみを子供達の世話をすることで忘れられるのであればいいか。
 キラは心の中でそう呟く。
 そんな彼の服の裾を引っ張る者がいる。視線を向ければ、一番小さな子が彼を見上げているのがわかった。
「抱っこ?」
 そう問いかければ、彼女は小さく頷いてみせる。
「いいよ」
 言葉とともにキラはその体を抱き上げた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝