空を見上げる。
 肉眼では見えないが、この先にはユニウスセブンがあるはずだ。
「……ユニウスセブンが、落ちる……」
 自然にそんなことが起きるはずがない。少なくとも、自分が行ったシミュレーションでは、後一世紀以上、あれはその場に留まるはずだった。
「誰が……」
 そのバランスを崩したのだろうか。
「何か、いやな予感がする」
 誰かの悪意が世界を覆い尽くそうとしているような、とキラは呟く。だから、ユウナはあれほどまでに自分に執着をしているのだろうか。そんなことすら考えてしまう。
「とりあえず、シェルターを確認してこないと……」
 多分、大丈夫だとは思う。
 しかし『多分』では安心できないのだ。
 少しでも確実性を増しておきたい。
「もう、守れないのは、いやだ」
 自分の目の前で、誰かを失いたくない。そのためなら、何でも出来るような気がする。だから、と思いながらきびすを返す。
「キラ兄ちゃん!」
 その時だ。子供の一人が彼に向かって駆け寄ってくる。
「ここだよ」
 どうしたの? と微笑みながら彼を手招く。
「マルキオ様が呼んでる!」
 言葉とともに、彼はキラに抱きつくようにして止まった。
「そう。ありがとう」
 何とかその体を抱き留めながら、キラは微笑む。
「波が荒いからね。一緒に戻ろうか」
 そして、こう告げる。
「……手、つないでくれる?」
 抱きついたまま、子供がこう問いかけてきた。
「いいよ」
 優しい表情で言葉を返せば、彼は嬉しそうな表情を作る。そのまま手を差し出してきた。その手をキラはそっと握りしめる。
「じゃ、帰ろうか」
 そう言えば、彼は小さく頷いて見せた。そのまま、ゆっくりと歩き出す。靴の下で砂が小さく音を立てる。
「……大丈夫だよね?」
 なみの音にかき消されるような小さな声で、彼は問いかけてきた。
「大丈夫だよ。シェルターの中にいれば、絶対に」
 あそこは、どんな攻撃を受けても大丈夫だ、とジャンク屋ギルドの人たちが言っていたから……とキラは笑みを深める。先ほどまで彼が感じていた、漠然とした不安はそこにはない。
「それに、何かあっても直ぐにアスハかサハクの人が助けに来てくれるよ」
 あるいは、ジャンク屋ギルドだろうか。
「だから、大丈夫」
 心配はいらないよ、と再度口にする。
「キラ兄ちゃんがそう言うなら、信じる」
 キラは自分たちに嘘を言わないから、と彼は微笑んだ。その純粋な視線に少しだけ胸が痛む。それでも、彼が不安を払拭できたのならば、それでいい。
「いいこだね、君は」
 そう考えながら微笑む。
「だって、俺、お兄ちゃんだもん」
 だから、みんなの手本にならないといけないのだ。そう言って彼は胸を張る。その様子に笑みが深まる。
「そうだね。お兄ちゃんは手本にならないと」
 自分は、決していい手本にはなっていないだろう。それでも、彼等のために出来ることはしてやろう。
 そう考えながら、ゆっくりと進んでいく。
 やがて、視線の先に心配そうにたたずんでいるラクスの姿が確認できた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝