ヴィーノがその時の思いつきで言葉を口にする、と言うことはよくわかっている。しかし、それが許せるときと許せないときがある。
「ヴィーノ!」
 今回は、その許せない方だ。そう思ってシンが口を開こうとするときだ。
「お前!」
 いったい、どこから聞いていたのか。カガリが踏み込んできた。
「今、何と言った!」
 怒りを隠せない。そんな表情で彼女は言葉を綴る。
「プラントに被害が及ばなければ、どれだけの人間が死んでもいいと? むしろ、その方が手間が省けていい、というのは、ザフトの人間の本音か?」
 オーブにも――そして、少数とはいえ大西洋連邦にも――コーディネイターはいる。そして、戦うことが出来ないナチュラルも、だ。そんな人間を見捨ててもいいというのか! と彼女はヴィーノに詰め寄っている。
 その言葉を聞いた瞬間、シンの脳裏に浮かび上がったのは、マルキオとカリダ、そして、子供達の姿だった。
 あるいは、キラが彼女たちを守るのかもしれない。
 しかし、その後はどうなるのだろう。
 帰るべき国を失った者達は、どこに行けばいいのか。
「……そういうわけじゃ……」
「ないと? いくら、仲間内の戯れ言とはいえ、口から出たというのは、お前がそう考えていたからではないのか?」
 その言葉に、ヴィーノは言葉を返せないらしい。
 しかし、不本意だが今回だけはカガリの意見に賛成だ。それでも、彼女の口から出たと思えば忌々しく感じてしまう。
「……あんたに言われたくねぇよ」
 何よりも、アスハはオノゴロを見捨てただろうが。人数が多ければダメで、少なければいいのかよ、とそう呟いてしまう。
「お前!」
「口ではきれい事を言おうと、アスハがオノゴロにいた人間を見捨てたのは事実だろう!」
 もっと早くに……と付け加えれば、彼女は悔しげに唇を噛む。
「そこまでにしておけ」
 シン、と言いながら、レイがそっと肩を叩いてくる。
「ヴィーノも、だ。今回のことは俺も聞き逃せない」
 ザフトの一員なら、自分の言葉が周囲の者に影響を与えるか。それを考えろ。たとえ仲間内の冗談でも、他国のものであれば荘は受け取らない。そう彼は言った。
「……レイ……」
 そこまで言わなくても、とヴィーノは言い返してくる。
「そうだよ。多かれ少なかれ、そう考えた人間はいるんだから」
 フォローのつもりなのか。ヨウランもこう言ってくる。
「一般の人間ならば、構わない。だが、ここにも本国にも、まだ地球に大切な人間がいる者もいるぞ。もちろん、ザフトにも、だ」
 そう言う人間の前で同じ事を言えるのか? レイは逆に聞き返す。
「……それは……」
 ザフトにも、地上で勤務している者はいる。その者達が被害を受けても同じ事を言えるのか……とレイに詰め寄られて、ヨウランは視線を彷徨わせ始めた。
「わかったなら、さっさと仕事に戻れ。いずれ、俺たちにも艦長から指示がでるだろう」
 その時に、万全の体勢で出撃できるようにしておかなければいけない。その言葉には誰も反論できなかった。
「お二人も……申し訳ありませんが、お部屋にお戻りいただけますか?」
 ここからは自分たちの問題だ。レイはきっぱりとした口調で告げる。
「それで、私たちに納得しろ、と?」
 カガリが即座に言い返してきた。
「ここは、ザフトですから」
 しかし、レイは一歩も退かない。
「言いにくいことですが、あなた方に何が出来るとは思っていません」
 そうである以上、大人しくしてもらうしかない。彼はさらに言葉を重ねる。
「……お前……」
「確かに、それが真実だな」
 カガリを押さえつつ、アレックスがレイの言葉に頷いて見せた。こういうところでも冷静さを失わないのは彼が護衛だから、だろうか。それとも、ルナマリアの言うとおり、彼が《アスラン・ザラ》だからなのか。
 どちらにしても、自分には関係ない。
 それよりも、どうすれば地球上への被害を最小限で抑えられるかの方が重要だ。
「……議長は、どうされるだろうか」
 ふっとシンはこう呟く。
「砕くしか、ないだろうな」
 それに、レイはこう言い返してくる。
「出来るだけ小さく砕いて、後は大気との摩擦で燃え尽きさせるしかない。引き上げられない以上、俺たちに出来るのはその位だ」
 たとえ、あそこにどれだけ思い入れがあろうとも、生きている人間を守る方が大切だ。レイはそうも続ける。
「そうだな」
 結局は、それしかできない。だが、それでも誰かを守れるなら、全力を尽くすしかないのか。シンはそう考えていた。



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