「ユニウスセブンが?」
 信じられない、とカガリが呟く。
「残念ながら、それが真実なのですよ、姫」
 自分たちも信じたくはないが……とギルバートが言い返した。
「しかし、間違いなくこのままでは地球に落下します」
 対策を取らなければ、多大な被害が出る。そう彼は続けた。それはカガリにもわかっているはずだ。
「どうされる、おつもりですか」
 プラントは、とアスランは問いかけた。
 あれだけの質量のものが地上に落下した場合、大気との摩擦があっても燃え尽きることはないだろう。
 そうなれば、結論は一つしかない。
 しかし、何か他に手だてがあるのではないか。
 もちろん、不可能だとわかっている。
 それでも、こう考えてしまうのは、あそこにはキラやカガリと同じくらい大切なものが眠っているからだろうか。
 きっと、自分と同じ気持ちのものは、プラントでも多いはずだ。
「……砕くしか、ないだろうね……」
 苦しげな声音でギルバートがそう言った。
「議長!」
 信じられないというようにタリアが彼に呼びかけている。
「それ以外、どうしろと?」
 確かに、あそこには幾万の同胞が眠っている。しかし、だ。彼等の眠りを守るために地球にすむ者達を危険にさらすわけにはいかない。
「生きている者達の命と、感傷。どちらを優先すべきか、艦長にもわかっていると思うが?」
 そのせいで、新しい憎しみを生んでは意味がない。違うのか、とギルバートはさらに言葉を重ねる。
「そうかも、しれませんが……」
 それでも、と付け加えるのは、彼女もまた彼の地で親しい者をなくしているからかもしれない。
「他の誰かにさせるよりも、我々がこの手で行うべきだ……と思うが?」
 そんな彼女に、ギルバートはさらに言葉を投げつけた。
「君が出来なくても、他のものならできるだろうね」
 何にしても、自分たちプラントが一番早く対処が撮れる。そうである以上、見過ごすわけにはいかない。
「我々は新たな悲劇を生むわけにはいかないのだよ」
 ここまで言われては、ザフトの軍人としては納得しないわけに行かなかったのだろう。
「……わかりました……」
 戦争の道具にされるよりは、自分たちの手で砕いてしまった方がいいのだろう。そう彼女は頷いてみせる。
「そう言うことですので……姫とディノ君には我々がこの結論を出したのだ、と覚えておいて頂きたい」
 後はこちらで対処をする。彼はそう付け加えた。
「そんな……」
「わかりました」
 反論しようとするカガリを押さえて、アスランはこう言い返す。
「我々がここでできることは、何もありませんから」
 自分たちは、彼等の好意で保護をして貰っている立場だ、と言外に付け加える。
「ご理解頂けて嬉しいよ」
 ギルバートもそう言って頷く。それを合図に、アスランはカガリを促して部屋を出た。
「どういうつもりだ、アスラン!」
 即座にカガリが噛みついてくる。
「俺たちに、何が出来る?」
 今の、と付け加えた。
「オーブに、連絡を取れば……」
 それに、彼女はこう言い返してくる。
「そして、セイランにいいように改ざんされる、と?」
 連中なら、それをプラント避難の材料にしかねない。あるいは、この事自体、プラントの陰謀だ、と宣伝するのではないか。そう告げる。
「いくら連中でも……」
「……オノゴロのことを考えれば、ないとは言い切れないだろう?」
 避難勧告を送らせたのは彼等らしい。そう言ったのはカガリだろう? とアスランはさらに声を潜めて告げた。
「……それは、そうだが……」
 このような状況なら、と彼女は自説を直ぐには撤回しない。
「それに……このような状況なら、きっと、キラを動かそうとする」
 仕方がない、と最後のカードを切る。
「キラ、を?」
「そうだ。あれがあるならまだしも、アストレイやムラサメでは、いくらキラでも対処が出来ないだろう?」
 ただ、危険にさらすだけだ。そう告げれば、彼女は唇を噛む。
「そう、だな……あいつを危険にさらすわけにはいかない」
 渋々ながら、彼女は頷く。
「大丈夫だ。デュランダル議長なら、適切な対処を取ってくださる」
 それを信じて自分たちは静かに見ていよう。そう言えばカガリも「そうだな」と呟くように言った。



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