あの日から、カガリとその護衛の視線がいつでも絡みついてくる。その理由もシンにはわかっていた。
「誰がお前らに見せるかよ」
 これはキラに渡すために預かったものだ。だから、彼以外に中を見る権利はないはず。どうしてそれが理解できないのか。
「好意があれば、何でも許されると思うんじゃねぇ」
 そう言いながら、シンはそっと胸元を押さえる。ディスクの存在を確認して、少しだけほっとすると、今度はポケットからピンクの携帯をとりだした。
「……マユもそう思うだろう?」
 そのモニターには、妹と彼女に抱きつかれて困っている三年前の自分の姿が映し出されている。
 本来の役目は既に果たさないそれでも、自分にとっては家族との思い出を忍ぶことが出来る唯一ものものなのだ。そして、キラにとってはこれがそうなるはず。それを他人に土足で踏み込んで欲しくない、と考えるのはいけないことなのか。
「あいつらは、何であそこまで『自分が正しい』って考えられるんだ?」
 自分だけが正義というわけじゃないだろうに、と呟く。
「結局、アスハはアスハってことか」
 他人の痛みに気づけない、と付け加えたときだ。
「……シン、それまでにしておけ」
 ため息混じりの声が耳に届く。
「レイ?」
 聞いていたのか。そう思いながら、慌てて振り向いた。
「そろそろ、交代の時間だぞ」
 ルナがぴりぴりしている、と彼は苦笑混じりに続ける。
「マジ?」
 そんなはずはない。そう思いながら、携帯をポケットにしまう。そして代わりに端末を引っ張り出した。
「……って、まだ十分もあるだろう」
 五分前には行く予定だったのに、とシンはため息をつく。
「ルナは、今、アレックス・ディノが気にかかっているようだからな」
 少しでも傍にいいのだろう。彼は苦笑と共に付け加えた。
「はっ! あんな自己中の八方美人の、どこがいいんだよ」
 カガリの腰巾着だろう、とあきれたようにいう。確かに、顔はいいかもしれないが、それだってコーディネイターの中でなら、上の下ぐらいじゃないか。そうも付け加える。
「シン。言い過ぎだぞ」
 そう言いながらも、レイの口元が微妙にひくついているのがわかった。
「だって、本当のことじゃん」
 カガリ・ユラ・アスハの護衛でしかないだろう、とシンは言い返す。
「……あいつが、本当に《アスラン・ザラ》だとしても、今の立場はそうなんだろ?」
 だから、自分に何かを言ってくるのはお門違いだ、と続けた。
「……やはり、か」
 レイのディスクに関して、何か言われたんだな? とレイが問いかけてくる。
「中身、見せろってさ。出来るわけないじゃん」
 常識で考えれば、と即座に言い返す。
「これは、あの人だけが見ていいんだ。でなければ、カリダさんと一緒で」
 少なくとも、キラがいない場所で、これを開くわけにはいかない。それだけは譲れないものだ、とシンは信じている。
 しかし、連中は聞く耳を持たないのだ。
 そんな奴なんて、知らない。シンはそう言いきった。
「……ルナも、やっぱり、女性だ……と言うことだろう」
 ついでに、自分たちは彼女から《男》として見られていないらしい。レイは苦笑を深めるとそう告げる。
「ともかく、控え室に行くんだな」
 彼女を怒らせると別の意味で厄介だぞ……と彼は続けた。
「それは否定できないな」
 確かに、一度本気ですねた彼女をなだめるのは骨が折れる。そう考えれば、すねさせない方がマシだ。その内容が、どれだけ理不尽だったとしても、だ。
「仕方がない。行くか」
 ため息とともに体の向きを変える。
「後で、ドリンクを持っていってやるよ」
 そんな彼に、レイがこんな声をかけてきた。
「待っているよ」
 そんな彼に手を挙げて言葉を返す。そして、歩き出した。

 ユニウスセブンで、何が起きているのか。この時の彼らは知らなかった。



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最遊釈厄伝