レイの報告に、ギルバートは苦笑を浮かべる。
「おやおや。意外なところから繋がりが見えてきたね」
 もっとも、それはある程度、予想していたことだが……と彼は続けた。
「どうしますか?」
 シンを追及するか、と言外に問いかける。それとも、彼が預かっているというものの内容をこっそりと確認をするべきなのか、とも。
「いや……それはやめておこう」
 少し考えた後で、ギルバートはこういった。
「ギル?」
 何故、と思わず聞き返してしまう。
「父君の遺品なのだろう。ならば、キラ君が真っ先に目を通す権利がある」
 それに、個人的な内容だった場合、申し訳ない思いでいっぱいになるのではないか。それが《キラの父ハルマ》のものではなくラウのものだったと考えてみれば、その気持ちがわかるだろう。そう言われて、納得してしまう。
「もっとも、シン君が中を知っているのか。さりげなく聞いておくぐらいは許されると思うがね」
 そのあたりのさじ加減はレイに任せる。彼はそうも付け加えた。
「わかりました。」
 それはそれで難しいような気がする。しかし、ギルバートがそう言うのであれば、従うべきなのだ。レイはそう考えている。
「でも、無理強いはいけないよ。それは彼の辛い記憶とつながっている可能性があるからね」
 だから、と言われて小さく頷く。
「もっとも、姫もそう考えてくれるといいのだが」
 ため息とともにギルバートはそうも告げた。
「難しいと、考えているのですか?」
 カガリの顔を思い浮かべながら、レイは問いかける。
「彼女だけで七句、ここにはアスラン・ザラもいる。二人とも、キラ君を大切にしていたらしいからね」
 もっとも、その気遣いが彼にとって重荷になっている可能性はあるが。
「彼は、普通の子供だったそうだよ。だからこそ、ラウが執着したのだろうね」
 最後のあの時に、とギルバートは言葉を重ねる。
「その気持ちはわからなくないが……キラ君にとっては不幸だったかもしれない」
 キラが表舞台から姿を消したのは、それが原因かもしれない。
「……ですが……」
「わかっているよ、レイ。君にとっても彼にとっても、キラ君は特別な存在だと」
 そして、レイを救えるかもしれないのもキラだ。そう言った意味では、自分にとっても特別な存在だろう。彼はそう言っていつもの笑みを浮かべる。
「とりあえず、居場所がわかったのは僥倖だね」
 今、キラがどのような状況に置かれているのか。それを確認すべきだろう。そして、そこにはラクス・クラインもいるはずだ。彼女の存在も保護しなければいけない。
「あの時は仕方がなかった、とはいえ……カナーバ前議長の判断には異を唱えたくなるね」
 プラントに彼等がいてくれれば、話は楽だったのだ。
 しかし、とため息をつく。
「ザラ派の者達の存在を考えれば、妥協するしかないのかもしれない」
 彼らがまだ大人しくしているとも思えない。彼は相談源をする。
「そうですね。できれば、あの人達の存在を連中にかぎつけられないようにしないと」
 キラとラクスは、ザラ派の者達にとって目障りでしかないはずだ。だから、とレイは顔をしかめる。
「確かに。それならば、アスラン・ザラがここにいてくれることも我々にとってはプラスか」
 あまり好ましくないことだが、と彼はため息をついた。
「もっとも、その前に我々が無事にプラントに帰り着かなければいけないだろうがね」
 あるいは、ザフトの他の隊に合流するか、だ。
「……この先に、ジュール隊がいるはずですが」
 確か、とレイは首をかしげた。
「あぁ。彼等に合流をすれば、姫とアスラン君を無事にオーブにお返しすることも出来る、かな?」
 意味ありげな口調と共にギルバートは言う。
「……ギル?」
「連絡を取っていなかったようだからね。ジュール隊長やエルスマン君がどう出るか」
 殴られるぐらいは覚悟して貰わないとね、と彼は続ける。
「……そうですね」
 自分でも殴るだろうか。レイはそう考えて頷く。
「ともかく、シン君を追いつめないようにね」
 話題を戻すと、ギルバートはこういった。
「はい、ギル」
 シンは大切な友人だ。だから、とレイはしっかりと言葉を返す。それに、ギルバートは満足そうに微笑んで見せた。



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