確かに、今のはカガリの失言だったかもしれない。しかし、だ。
「……さすがは《アスハ》だよな」
 きれい事しか言わない、と目の前の少年に言われなければならないことなのだろうか。
「どういう意味だ?」
 即座にカガリがくってかかる。
「自分たちの言葉が正しいと信じている。その裏で、どれだけの人間が辛い思いをしていると思っているんだ?」
 それだけならばいい。アスハのせいで命を失った人間だっている。残された者達が、それについてどう思っているか。考えたこともないだろう、と彼は言い返してくる。
「……お前が、何を知っていると言うんだ?」
 それがカガリのプライドを刺激してくれたのか。即座に彼女はこう言い返す。しかも、その声が怒りに震えていたのはアスランの錯覚ではないだろう。
「知ってるさ! 俺は、その場にいたからな」
 目の前で家族が殺された光景も覚えている。彼はそう言いきった。
「……シン。そこまでにしておけ」
 ため息とともにもう一人の少年が彼をなだめるように声をかける。
「そうよ。あの方はオーブの代表なのよ?」
 さらにルナマリアも声をかけていた。
「……それが?」
 しかし、シンは納得できないらしい。
「俺たちを追い出したオーブの、お飾り代表なんて、何で気にしなきゃいけないんだよ」
 さらに付け加えられた言葉に、アスランは『まさか』と思う。
「……だが、それはアスハのせいではないだろう?」
 その方策を決めたのはセイランだろう、とレイが言い返している。
「その前に、オノゴロで避難勧告を出さなかったのはアスハじゃないか! だから、俺みたいな子供がたくさん生まれたんだろう」
 そうだろう、レイ……とシンは彼に問いかけた。
「……マルキオ様がいらしてくださったから、それでもマシだったけどさ」
 それに、カリダおばさんも……と彼はさらに言葉を重ねる。ここまで言われたら、彼が子供達の言っていた《シン》なのだとわからないはずがない。
「……嘘、だろう……」
 同じ結論に達したのか。カガリが呆然と呟く。
「あれが、カリダおばさんが言っていたシン・アスカだとして……どこが『いいこ』なんだ?」
 ただの生意気なガキだろうが、と自分のことを棚に上げて告げる。
「カガリ……」
 とりあえず、言葉遣いに気をつけろ……と言うしかない。
「そうは言うけどな、アスラ……じゃなくてアレックス。どう考えても、あれがいいこなわけないだろう?」
 もっとも、カリダは自分たちのことも『いいこ』という。だから、彼女からすればどんな子供でも『いいこ』に見えるのかもしれないが。アスランはそんなことも考えた。
「だが、おばさんだけではなく、子供達もみんな、彼は『いいお兄ちゃんだった』といっていただろう?」
 キラだって、とアスランは続ける。
「……あんたら、マルキオ様やカリダさん、それにキラさんと知り合いなのか?」
 その声が聞こえたのだろうか。シンがそう問いかけてきた。
「あぁ。それが何か?」
 ぶっきらぼうな口調でカガリが聞き返す。
「……あの人、今、元気なんだよな? ハルマさんから預かったものを渡さなきゃないんだけど」
 と言うことは、オーブにいるんだ……と彼は続ける。
「……もちろん、マルキオ様の所にな」
 ひょっとして、彼はキラが《フリーダムのパイロット》だったことも知っているのだろうか。しかし、それをここで確認するわけにはいかない。だから、とアスランは言葉を濁す。
「そっか」
 なら、安心だな……とシンはほっとしたような表情を作る。そうすれば、彼の表情は年相応の柔らかさを帯びた。それだけを見ていれば、カリダの言葉が正しいようにも思える。
「……ともかく、それについては話を聞かせてもらうぞ」
 カガリがそう言いながら足を踏み出す。
「何で、あんたなんかに?」
 今までの柔らかさはどこに行ったのか。シンは即座に憮然とした表情で言い返す。
「お前なぁ!」
 このままでは、言わなくていいことすら口にしかねない。そう判断をして彼女を連れ出すことにした。同じ事を考えたのか。レイもシンの肩に手を置いている。
 このままでは、別の意味で厄介なことになりそうだ。
 どうしたら、カガリを大人しくさせられるのだろう。そう考えるだけで、胃が痛む思いがするアスランだった。



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