「……セイランが何かを画策しているらしい、というのは事実だな」
 しかし、その内容がどうしても掴めない。それは、セイランが注意をしているからではなく、相手がうまく立ち回っているからだろう。バルトフェルドはそう言ってため息をつく。
「ブルーコスモス、でしょうか」
 キラは不安そうにそう問いかける。
「だろうね。連中にしてみれば、オーブの技術力は欲しい。そして、カガリの存在もな」
 だが、自分たちの逆らうコーディネイターは必要ない。その人権を認めるオーブの理念も否定したい。そう言うところだろう。バルトフェルドは口にする。
「それと、お前のことは別問題だと思うぞ」
 あれは、間違いなくユウナのスタンドプレイだ……と彼は続けた。
「何で、僕にあそこまで執着をするのでしょう」
 アスランやカガリであれば、まだ理解できるが……とキラはため息をつく。
「俺に聞かれても、な」
 それにバルトフェルドも苦笑と共に言い返す。
「恋愛感情抜きで、同性をそう言う対象にする人間の思考は、理解できん」
 これが、恋愛感情があればまだしも……と彼は続けた。
「……そういうものですか?」
 フレイとのことがあったからだろうか。恋愛感情自体、曖昧にしか感じられなくなっている。だから、そう言われてもわからない、と言うのがキラの本音だ。
 それでも、誰かが誰かを好きでいる姿を見ているのはいやではない。アスランとカガリを時々、鬱陶しいとは思いつつも嫌いになれないのもそのせいなのだろうか。
 いや、違うだろう。
 彼等は、まさしく《肉親》だから、無理難題を言われても我慢できるのだ。
 しかし、ユウナはそんな存在ではない。それなのに、余計な権力を持っているから、厄介なのだ。
「好きになった相手が異性か、同性か。コーディネイターかナチュラルか。そんなのは、好きになってしまえば関係ないものだろう?」
 だから、本当に好きだというのであれば、自分は応援するだけだ。言葉とともにバルトフェルドはキラの頭に手を置いた。それが生身の方の手なのは、彼なりの気遣いなのだろうか。
「お前でも、ラクス達でも、それは変わらない」
 ただ、と彼は真顔で見つめてくる。
「ないとは思うが、あれだけはやめておけ。好きだと言い出しても、全力で邪魔をするぞ」
 あれが相手では、幸せになれない。きっぱりと断言をした。
「わかっています。僕も、あの人は好きじゃないですから」
 第一、彼自身が自分を好きではないはずだ。だから、とキラは言い返す。
「そうだな。お前には……多少、お前を振り回してくれる相手の方がいいかもしれないな」
 余計なことを考えないように、と彼は笑う。
「……なんですか、それは」
 何故、そう言うことになるのか。キラは思わず言い返す。
「まぁ、気にするな」
 個人的な見解だ、と彼は平然と告げる。
「それよりも、こうなるとカガリが今、オーブにいないことはよかったのかもしれん」
 彼女が帰ってくるまでに、こちらもあれこれ手だてを考えられるだろう。もっとも、それがどこまで有効なのかはわからないが、と彼は続ける。
「そうですね。カガリを人質に取られたら、僕たちは動けなくなる」
 そうならないように準備をしないと、とキラも頷く。
「そちらに関しては、こちらでやっておく。お前は詳しいことは知らない方がいい」
 追及されても、それならば答えようがないだろう? という言葉にはどう反応を返せばいいものか。
「それに……お前が下手に動くとラクスが怖い」
 間違いなく、ユウナに関して怒りを抱いている。それが噴火したら、自分で求められない。
「……僕が何とも思っていないのに、ですか?」
 いくらなんでも、とキラは言外に付け加える。だが、バルトフェルドは「それでもだ」と言葉を重ねた。
「あぁ。ラクスだからな」
 アスランを見ていればわかるだろう。そう言われては反論のしようもない。
「と言うわけで、出来るだけ傍にいてやれ」
 キラが傍にいれば、彼女だけではなく子供達も喜ぶだろうし……とバルトフェルドは笑う。
「アンディさんがいてくれても、みんな喜びますよ」
 子供達は一緒に遊んでくれるおじさんが好きだから、とキラは何の含みもなく続ける。
「……おじさん、か……確かに、十歳前後の子供達から見れば、そうとしか言いようがない年齢だが……」
 その瞬間、彼は複雑な表情を浮かべた。
「せめて、マードックくらいの年齢になっていれば、達観できるのだろうが、俺はまだ若いつもりなのだが……」
 ぶつぶつと彼はさらに言葉を重ねる。ここで、マリュー達が自分のことを「お姉さん」と呼ばせていることは指摘しない方がいいだろう。そう言うことで女性に逆らったらどうなるか、自分が言わなくても知っているはずだし、と心の中で付け加える。
「諦めてください」
 キラは言葉とともに苦笑を浮かべた。



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