何故、懲りていないのだろうか。
 目の前の相手を見ながらキラは小さなため息をつく。
「聞いているのかな?」
 しまりのない微笑みと共にユウナが問いかけてきた。
「お話は聞いております。ですが、何と言われても、答えは変えようがありません」
 セイランに協力する気はない。いや、アスハやサハクであろうとも、今は手を貸すつもりはない、とキラは付け加える。
「誰に協力をするか。それは僕の自由だ、とも言われています」
 だから、断ったとしてもそれはユウナに文句を言われる筋合いはない。さらにこうも付け加える。
「……可愛くないね、君は……」
 顔はともかく、とユウナはわざとらしいため息をつく。
「本当。そう言うところはカガリに似てきた?」
 意味ありげな声音で彼はそう続ける。
「何をおっしゃりたいのでしょうか?」
 意味がわからない、と首をかしげて見せた。
 もちろん、それはポーズだ。彼が自分とカガリの関係を知っているのだと、キラにもわかる。しかし、それを認めるわけにはいかない。だから、とあえて気がつかない振りをした。
「おやおや。本当にわかっていない訳じゃないだろう?」
 弟君、とユウナは笑う。
「本当に、意味がわからないのですが」
 何の話なのか、とキラは真顔で言い返す。
「……本当に知らないのかい?」
 流石にその様子にユウナもそう判断しないわけにはいかなかったらしい。
「そうなんだ。カガリも、何か考えているのかな」
 同時に、何か良いことに気がついたというように彼は笑みを浮かべる。
「君。自分の本当のご両親のことを知りたいとは思わないかい?」
 そして、さらに言葉を重ねた。
「……別に」
 自分の両親は、育ててくれたあの二人だけだ。それ以外に必要はない。キラはそう言い返す。
「もっとも、父を返してくださるというなら、話は別ですが」
 流石に、このセリフにはユウナも直ぐに言葉を返せないらしい。
「お話がそれだけでしたら、失礼をさせて頂きます。ロンド・ミナ様にご連絡を取らなければいけませんので」
 あちらは宇宙にいるから、通信できる時間が決まっている。それに遅れれば彼女が不審に思うのではないか。
「ずいぶんと、仲が良いんだね……」
 頬をひきつらせながら、ユウナが口にする。
「あの方の見識の深さは、尊敬すべきものですから」
 それに、自分のことも気に入ってくれているし……とキラは続けた。
「それが、何か?」
 逆に聞き返せば、彼は頬をひきつらせながらも口をつぐむ。下手なことを告げてロンド・ミナへと告げられてたこ丸、と考えているのか。
「……まぁ、同じコーディネイターだから、な」
 お前達は……と告げたのは悔し紛れなのだろうか。
「そうですね」
 それが何か、と言い返してもユウナは言葉を返してこない。
「では、失礼をします」
 もっとも、これ以上、話をすることもないだろう。そう考えてキラは立ち上がった。
 その瞬間だ。
 いきなりユウナがキラの手を掴んでくる。
「あの……」
「……後で後悔をしないように、じっくりと考えるんだね」
 時間はそれほどないよ、と彼はそのまま口にした。
「まぁ、ボクは優しいからね。君の態度次第では手助けをしてあげるよ」
 その言葉の裏に何が隠されているのか。キラにはわからない。
「……覚えておきます」
 とりあえず、要注意だな……と心の中で呟いていた。



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