モニターに相手の姿は映し出されていない。だが、こちらの様子が筒抜けだろうと言うことは確認しなくてもわかった。
 しかし、それについて文句を言うことは出来ない。
 自分は、その相手の拾われたおかげでここにいられる存在だからだ。もちろん、それと現状が面白くないと感じることとは別問題だろう。
『あれらが、なかなか楽しいおもちゃを開発したようですよ』
 どこかあざ笑うような声音で、相手は告げる。
『そう言うことですから、ちょっと貰ってきてください』
 さらに付け加えられた言葉に、一瞬苛立ちを覚えた。言われるほど簡単に出来ることではない、と相手も知っているはずなのだ。
『あの子達が使い物になるかどうか。それも確認しないとね』
 だが、相手の言葉には異論を認めないと滲んでいる。
「わかりました」
 こう言う以外に選択肢は残されていない。だから、相手の望む言葉を口にした。

 もうじき、ミネルバの進水式があるから、だろうか。
「ずいぶん、人が多いな」
 周囲の様子を見ながら、シンはこう呟く。
「式典が後悔されるから、か?」
 だとしても、それだけではないような気がする。
 第一、アーモリー・ワンと呼ばれているこのプラントは戦後に作られたものだ。だから、他のプラントよりも離れている。
 アプリリウスからディセンベルへ移動するよりも時間も費用もかかるのは、当然のことだろう。
 きっと、ここに来られる人が増えたと言うことは、それなりに戦後の痛手から抜け出してきた人が増えた証拠だろう、とシンは心の中で呟く。
「オーブは、どうなんだろうな」
 ふっとこう口にする。
 プラントのそれは目の当たりにすることが出来るが、既に遠く離れた彼の国のことは、時たま流れるニュース映像ぐらいでしか推測できない。
「アスハはセイランはどうでも良いけど、みんなが無事だといいな」
 マルキオも含めて、と彼は付け加える。
 確認しようと思えば、出来るのかもしれない。
 だが、それをしたくないのだ。
 そんな些細なことで、マルキオやその間傾斜の手を煩わせることはしたくない。
 それに、とシンは心の中で付け加えた。
 もし、万が一のことが起きていたら、自分はどうすればいいのか、わからなくなる。それよりはみんなが無事だと信じている方がいい。
「きっと、無事だよな」
 大きな紛争が起きたという話しも、オーブでテロがあったという話も聞いていない。だから、きっと大丈夫だ。シンは自分に言い聞かせる。
「シン! 準備できたか?」
 そんな彼の耳に、ヴィーノの声が届く。
「あぁ。直ぐにでも出かけられる」
 即座に言葉を返す。そして、そのまま彼はかけ出した。

 ギルバートからの連絡に、レイは軍の敷地内を走っていた。
「……予定では、あさってのはずだったのに……」
 何故、それが繰り上げになったのか。同時に、自分を呼び出さなければいけない理由は何なのか、と心の中で呟く。
 だが、それよりも彼に会えるという事実の方が嬉しい、と言うことも否定できない。
 やはり、自分の中で彼は特別な存在なのだ。
 そして、いつ、何が起きるのかもわからない。だから、こうして会えるときにあって起きたいと思う。
 同時に、何か厄介ごとが起きなければいいのだが、とも考えてしまう。
「……何か、いやな予感が消えないからな」
 今朝から、とレイは呟く。
「シンも同じようなことを言っていたし」
 何かがあるのだろうか。
 しかし、今の平和を壊そうという人間は誰だろう。そう考えて、真っ先に浮かぶのは、もちろん、あの連中だ。
「何もないのが一番いいんだが」
 こう付け加えたときだ。目の前にギルバートの姿が確認できた。それに、レイは歩調を弱める。
 彼に気がついたのだろう。
 ギルバートが微笑んだのが見えた。

 ほぼ同時刻。
 アーモリー・ワンのデッキに一隻の船が着艦をした。



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