「ったく……いったい、元凶を作ったのは誰だと思っているんだ!」
 珍しいくらいにカガリが苛立ちを隠せずにいる。
「カガリ……子供達が恐がってるぞ」
 理由はわかっているが、とあきれたようにアスランが諫めていた。
「そうは言うがな」
 そんな彼にも、カガリはくってかかっている。
「……何が、あったの?」
 聞かない方がいいような気もするが。そう思いつつ、キラは口を開く。
「……セイランが、またとんでもない法案を持ち出してきただけだ」
 ったく、自分たちがコーディネイターを追い出したくせに。カガリがそう口にする。
「今更、他国への技術流出を禁止しろと言っても無理だろうが」
 彼等は、プラントへと移住した。
 だからこそ、あちらで生活の糧を得るために己の持つ技術を利用しているのだろう。
「確かに、そうだね」
 誰だって、自分が出来る唯一のことをしようと考えるのは当然のことだ。
 何よりも、個人が身につけている技術は、その人の努力の結果だろう。それを使うなということは自分自身の人生を否定しろと言うことと等しいのではないか。
 しかし、今、ここで自分が怒りを顕わにするわけにはいかない。そんなことをすれば、さらにカガリが怒りを増長するに決まっている。キラは心の中でそう呟く。
「それで、どうなさいますの?」
 代わり、と言うようにラクスが問いかけた。
「……とりあえず、形だけでも抗議に行かなければいけないだろうな」
 プラントに、と彼女はため息をつく。
「もちろん、それは表向きことで……あちらに行った者達の保護を依頼してくる」
 恐らく、既にブルーコスモス関係者があちらに侵入しているはずだ。カガリはそう言いきった。
「まさか……」
 そんなことが可能なのか。キラはそう呟く。
「セイランが絡んでいれば不可能ではない」
 静かな声でアスランがそう言った。
「バルトフェルド隊長も、同じ考えだそうだ」
 だから、と彼は続ける。
「俺も一緒に行って、カガリがあちらの議長に会っている間に根回しをしてこい、だそうだ」
 可能なのかどうかはわからない。
 そもそも、あちらの議長がこちらの話に耳を貸してくれるかどうかがわからない、とアスランは言った。
「……カナーバ議長なら……」
「カナーバ議長は退任されたそうだよ」
 キラの言葉にアスランは静かに言い返してくる。
「退任された?」
 いったい何故、とキラは問いかけた。
「何か、いろいろとあったらしいが……その情報は俺たちの元まで届いていない」
 どこかで握りつぶされている、と言われて納得をする。
 恐らく、カガリ達は徹底してその手の情報から切り離されているのだろう。だから、バルトフェルド達と頻繁に接触を持っているのではないか。
「そうなんだ」
 そう言えば、ここしばらくキサカの姿も見ていない。
 あるいは、彼もカガリから引き離されたのではないか。彼女が余計な力を手にしないように、と。
「厄介だね」
 しかし――いや、それだからこそ自分はまだ動くわけにはいかない。
 そんなことをすれば、間違いなくオーブは分裂する。
「……ともかく」
 それがわかったのだろうアスランは小さなため息とともに言葉を口にする。
「そう言うことだから、お前は決して無理をするな。いいな」
 小さな子供に向かって告げるようにそう言う。
「わかっているよ、アスラン」
 だから、カガリをよろしく……とキラは微笑んだ。



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最遊釈厄伝