「さて、ユウナ・ロマ・セイラン。もう一度、先ほど口にしたセリフを聞かせてもらおうか」 オーブの国民は、誰の所有物だと? とロンド・ミナは問いかける。 「……うっ……」 流石に、サハクの当主相手にあんな馬鹿なことを言えないのか。ユウナが言葉に詰まっている。 「それに、ここはマルキオ殿の所有する島だ。五氏族とはいえ、この方の土地で勝手なことは出来ぬ」 それは、セイランも例外ではない。ロンド・ミナはさらに言葉を重ねた。 「もちろん、彼が庇護している人間達も同様だ」 「ですが!」 「それに、彼に手を出すなら、アスハだけではなくサハクも敵も回すと思うがいい」 かまわないのか? と彼女はユウナをにらみつける。 「彼自身が協力をすると言うのであれば文句は言わん。だが、お前が権力を持って協力を強要するのであれば、同じ事をサハクがセイランに向かってさせるぞ」 マルキオが側についているのだ。その位のことを悟るぐらい簡単だ、と彼女は口にした。 「お前達がこの国のコーディネイターを迫害するというのであれば、私は彼等の庇護者となる」 それが、コーディネイターである自分が《サハク》の当主でいる理由だろう。そう言いながら、彼女はゆっくりと歩み寄ってきた。 「……覚えていろ! 後で後悔することになっても知らないからな」 逆にユウナは立ち上がると、そのままきびすを返す。そして、逃げ出すように部屋を後にした。 「……あの方も、せわしない」 いや、そう言う問題ではないだろう。マルキオの言葉を耳にして、キラは心の中でそう呟く。 「しかし、よくもまた、ウトナ様が今回のことをお認めになったものです」 ため息とともに彼はそう続けた。 「きっと、あれの独断だろう」 ロンド・ミナが苦笑と共に言葉を返す。 「セイランはカガリが欲しいらしい。しかし、相手があれだからか――それとも他の理由か――カガリはそれを拒んでいる。 「何度目になるかわからないが、この前もカガリはあれをふっていたな」 その判断は正しいだろう。彼女はそう言って笑った。 「もっとも、今の首長会はセイランの手の者が多いからな。あれも、いつまで拒めるか」 この国が地球連合の影響下にあったときに、既にセイランはその根回しをすませていた。だから、と彼女はため息をつく。 「本当に、あの男の執念深さには感心をする」 ウズミ達の影響力が弱まるのを虎視眈々と待っていたのだろう。そして、今はカガリの影響力を手にしようと動いている。経験が少ない彼女では、いずれそれに絡め取られてしまうだろう。 「その原因となり得るのが、君だよ」 そう言いながら、ロンド・ミナはキラへと視線を向けてきた。 「僕、ですか?」 それは、血のつながりがあるから……だろうか。そう考えながら、キラは首をかしげる。 「そうだ。あれが今、セイランに向かう気力を持ち続けていられるのも、君の存在があるかららしいしな」 もちろん、それだけではない。他の者達の存在も支えになってはいるだろう。だが、肉親の存在ほど大きな支えはないはずだ。 「そして、あれだけではない。軍やモルゲンレーテにも大きな影響力を持っているようだからな、君は」 だからこそ、ユウナが欲しがっているのだろう。 「しかし……少しまずい状況かもしれん」 あの様子では、と彼女はため息をついた。 「そうおっしゃいますと?」 確かに、ユウナの興味がキラ本人に向けられたのはわかったが……とマルキオが問いかける。 「そうだ。しかも、その興味がな。普通は同性に向けられるものではない」 自分も女性からそのような目で見られたことがあるからわかるが、と彼女は苦笑を浮かべた。 「しかも、あれの傍にはあれを止めるどころか煽りそうなものが多いからな」 連中の動きにも気をつけなければいけないか。そう告げた。 「あの……」 話が見えないのだが、とキラは首をかしげる。 「要するに、あれは君を性の対象として見ていると言うことだよ」 同性でそう言う関係を結ぶ者がいないわけではない。本人達がそれを望んでいるのであれば止めるつもりはないが……と彼女は言葉を重ねた。 「どう考えても、君があれを好きになることはないだろう」 そう言われて、キラは素直に首を縦に振る。 異性同性にかかわらず、故意をする気力が今の自分にはない。それをのぞいても、彼が好ましいと思えないのだ。 「当面は大丈夫だとは思うが……いざというときには私の所へ逃げてくればいい」 個人的にも、自分はキラが気に入った。そう言ってロンド・ミナは笑みをやさしいものへと変える。 「ありがとうございます」 彼女のこの言葉は素直に嬉しい。だから、とキラはすぐに言葉を返した。 |