ここはマルキオが所有している島だ。
 それにもかかわらず、目の前の人間はまるでじぶんのものだと考えているらしい。あるいは、オーブそのものが自分の所有物だと考えているのだろうか。
 カガリではないが、確かに好きになれない相手だ、とキラは思う。
 ねっとりとした視線が、まるで自分をなめ回すかのように絡みついてくる。しかも、それは道具を見つめる視線だ。
 つまり、相手にとって自分は道具と等しい存在だと言うことだろう。
「確かに、よくよく見れば似ているね」
 不意に相手はそう言った。
「どうせなら、君も女だったらよかったのに」
 いったい、それはどういう意味なのか。
「カガリは妻としては最高だけど、女性としては、ちょっとね」
 しかし、そんなキラの気持ちには気付かず――それとも、そんな気持ちがあると考えていないのか――彼はさらに言葉を重ねる。
「ユウナ・ロマ・セイラン?」
 それが気に入らずに、キラは彼のフルネームを口にした。
「そう。ボクは《セイラン》だからね」
 だから、この国オーブにう存在しているものは、自分が好きにしていいのだ。ユウナはそう言って笑う。
「そんなことはない。誰にだって、自分の意志がある」
 それを無視することは出来ない。キラは小さな声でそう言い返した。
「まぁ、それも真実だけどね」
 でも、とユウナは意味ありげな笑みを浮かべる。
「力のあるものに従うのも当然のことだろう?」
 特に作られた者コーディネイター達は、と彼は言った。
「まぁ、セイランだけではなく《アスハ》でも良いけど」
 キラが戦ったのは、カガリが命じたからだろう……と彼は言外に付け加える。
「だから、今度からはボクの言うことも聞いてくれれば良いだけだよ」
 そうするのであれば、この国にいることを許してあげるよ……と彼は続けた。
「お断りします」
 そんな彼に向かって、キラはこう言い返す。
「……何を……」
「僕はオーブ籍を持った一人の人間です。そして、そうである以上、自分自身の意志でのみ行動することが許されています」
 それは、オーブの憲章に記されている。だから、セイランであろうとアスハであろうと、自分自身の意志を曲げることは出来ない。そう続けた。
「少なくとも、僕は命じられたから戦ったわけじゃない」
 戦わなくてすんだのであれば誰が、と心の中で呟く。
「お前!」
「そもそも、何故あなたがここにキラ君がいるとお知りになったのですか?」
 不意にマルキオが口を挟んでくる。
「彼がここにいると知っているものは、カガリ様とそれに近しい方々だけです」
 それなのに、と彼は少しだけ語調を深めて問いかけた。
「そんなの、どうでもいいだろう!」
 自分はセイランなのだ、とユウナは言い返してくる。
「ボクはそいつと話をしている。マルキオ様だろうと何だろうと、口を挟まないで頂きたい」
 さらにこう付け加えた。
「お前もお前だ。せっかく、ボクが近くに置いてやると言っているのに!」
 何故、それを拒むのか……と彼は続ける。
「カガリに似ているし、性格は好みだから、可愛がってやろうと思ったのに」
 さらに付け加えられた言葉の意味がわからない年齢ではない。同時に気持ち悪さがわき上がってくる。
「お断りです!」
 誰が、といい返す。
「……そんなことをを言って……後で後悔するぞ」
 その時に謝ってきても遅いからな、とユウナがまるで駄々っ子のような口調で告げた。
「遅いとは?」
 あきれたような声が室内に響く。それはキラに聞き覚えのないものだった。しかし、ユウナはそうではなかったらしい。
「……何で、お前が……」
 焦ったように彼は腰を浮かせる。
「マルキオに用事があったからな」
 何か問題でもあるのか。そう言いながら室内に足を踏み込んできた人物は、黒い髪を長く伸ばした硬質的な容貌の人物だった。一見すると女性のようにも思えるが、その長身と所作からすれば違うようにも思える。
「ついでに、彼を紹介してもらう予定だったのだが……その前にお前と話し合った方がよいかもしれない」
 なかなか楽しい話をしていたようだし、とその人物は口元に笑みを浮かべた。赤く塗られたその唇を見れば、女性なのかもしれないと思える。
 でも、と思ったときだ。
「……ロンド・ミナ・サハク……」
 ユウナが呟くように相手の名を呼んだ。



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最遊釈厄伝