いったい、何をしに来るというのだろうか。
「……ともかく、ラクス達はここを離れていた方がいいんじゃないのかな?」
 キラはそう言う。
「でしたら、キラも……」
 即座に彼女は言い返してくる。
「そうしたいけど……あちらの目的は僕に会うことみたいだし……マルキオ様も同席してくださるから、大丈夫だよ」
 多分、とキラは続けた。
「ですが……」
 しかし、ラクスはまだ納得できないというように言葉を重ねる。
「大丈夫」
 大丈夫だから、とキラは微笑む。
「それよりも、君の存在が利用される方が困る」
 ラクスの存在は、今でもプラントで確固たる地位を築いている。あちらに戻ったダコスタ達がそう報告してきたとバルトフェルドも言っていたではないか。
 そんな彼女が、実はオーブにいる。
 それも、自分の傍に。
 カガリや軍人達ならば、まだいい。しかし、そうでない者達に知られた場合、間違いなくあちらを牽制するために利用されるだろう。
 それでは、ラクスはもちろん、プラントのためにもならない。
「僕は、オーブの人間だから、その心配はないし……」
 だから、とキラは続ける。
「……わかりました。でも、決して無理はしないでください」
 キラに何かあっても、自分が哀しい。そう彼女は訴える。
 いや、それだけではない。カガリやアスランも同じように思うだろう。何よりも、カガリにとって見ればキラの存在は大きいはずだ。ラクスはそう言ってくる。
「わかってるよ」
 だから、大丈夫。そう言ってキラは微笑む。アスランやカガリであれば、それでごまかされてくれる。しかし、ラクスはそういうわけにはいかない。
 それでも、キラが一度決めたことを翻さないとも知っているからだろう。
「……では、子供達とお散歩に行ってきますわ」
 不安だと隠さないままに彼女は腰を上げる。そして、ゆっくりとドアの方へと向かっていく。彼女のその背中をキラは黙って見送った。
「ラクス様はお出かけになったようですね」
 彼女の足音が遠ざかったところで隣の部屋からマルキオが姿を現す。
「マルキオ様」
「あなたのことよりも、あの方の存在が知られる方が厄介だという考えは、正しいでしょう」
 彼は静かな声でそう告げる。
「あちらが何を言ってくるかわかりません。ですが、オーブの人間であるあなたであれば、あちらの言葉を否定しても大丈夫でしょう」
 しかし、ラクス達は亡命者だ。そのことを盾に取られてはどうなるかわからない。
「もっとも、彼もまた《セイラン》ですからね。こちらも、それなりの備えはさせて頂いています」
 だから、大丈夫ですよ……と彼は微笑みを浮かべた。
「あなたは、あなたの意志に従ってください」
 それが一番良いことだ、とも彼は続ける。
「マルキオ様」
「あなたが、今、自分は動くときではない。そう考えているのであれば、そうなのです」
 言葉とともに、マルキオはそっと彼の肩に手を置いた。
「ですから、そのためには私も助力を惜しまないつもりです」
 自分が持っている影響力を駆使しても構わない。そう考えている、と彼は優しい口調で告げる。
「ありがとうございます」
 自分の一体どこに彼をそうさせるものがあるのかはわからない。だが、そう言ってもらえるのは嬉しいと思う。
「あなたは、もっと自分に自信を持っていいのですよ」
 人として正しい道を歩んでいると、と言われてもすぐには頷けない。第一、それはカリダやハルマがきちんとそれを教えてくれたからではないか。そうも思う。
「いずれ、あなたの力がまた必要とされる日が来るのかもしれません」
 できれば、そのような日は来ないで欲しい。そう考えるのは自分だけではないだろう、とキラは思う。
「戦うこと以外に、何も出来ないのに」
 その気持ちのまま、こう呟く。
「いえ。それはあなたがそう思いこんでいるだけですよ」
 キラはそれ以外のこともたくさんしている。ただ、自分で気付いていないだけなのだ……とマルキオは口にした。
「いずれ、それもわかる日が来るでしょう」
 その言葉を信じていいものかどうかはわからない。だが、マルキオが嘘を言うとも思えないから、キラは静かに頷いて見せた。



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