自分自身でMSの操縦をするようになって気がついたことがある。それは、キラがパイロットとしてものすごく優秀だ、と言うことだ。
 同時に、なせか彼の存在は知られていないと言うことも知ってしまった。
「……何でなんだろう……」
 きっと理由があるのだ。
 だからこそ、あの時、プラントから戻ってくるのが遅くなったのだろう。そして、オーブでは《同胞コーディネイター》の人権を疎外しかねない法案が出来たのではないか。
 それでも彼がプラントに戻ったのは、きっと、カリダが待っていたからだ。
「元気でいるといいな」
 彼女も、子供達も。そう呟いたときだ。
「何を見ている?」
 帰ってきたらしいレイが肩越しに問いかけてくる。
「……おととい見せられた資料映像」
 隠すことではないから、とシンはそう言い返す。
「ヤキン戦か?」
「あぁ」
 さすがはレイだ。一目見ただけでモニターに映し出されているのがあの時の資料映像なのだ、とわかったらしい。
「……オーブでは、この戦いはなかったことになっていたからな」
 あのころ、オーブの実権を握っていたのはセイランだ。だから、地球軍にとって不利益だと思える情報はまったく公表されなかった。自分が知っていたのは、マルキオの元に引き取られていたからに過ぎない、とシンは心の中で呟く。
「でも、誰もそれを信じてはいなかったけどな」
 カガリ・ユラが宇宙にあがったという事実は、公然の秘密だったから……と代わりに口にする。
「そうか」
 言葉とともに、彼は自分が使っている椅子を引き寄せた。そして、そのままシンの隣に腰を下ろす。
「……聞いていいことかどうか、わからないが……」
 この前置きと共に彼は口を開く。
「お前は、オーブをどう思っているんだ?」
 いったい、どういう意味でそう聞いてくるのだろうか。
「どうって……あそこは俺の故郷だ。それだけは何があっても変わらない」
 大切だと思える人も、まだいるから……とシンはそれでも言葉を返す。
「でも、セイランとアスハは大嫌いだ」
 あいつらのせいで余計な混乱が起きた。自分のように家族を亡くしたものだっている。だから、絶対に許さない……とシンは言葉を重ねる。
 それだけならば、レイはそこで引き下がってくれたのではないだろうか。
「あの時、せっかくフリーダムが助けてくれたのに……」
 しかし、無意識に付け加えたこの呟きが彼の興味をかき立ててしまったらしい。
「お前は、フリーダムを見たことがあるのか?」
 即座にこう問いかけられる。
「……オノゴロにいたからな。あの時」
 だから、とシンは言い返す。同時に、キラの姿を見たとは、絶対に知られないようにしよう。そう心の中で呟く。
「地球軍のストライク・ダガーに襲われそうになったとき、かばってくれた」
 しかし、ごまかすのも難しいだろう。だから、事実だけを淡々と口にする。
「パイロットのことは?」
「その一瞬だけだから、知らない」
 第一、あんなところで顔を合わせられるはずがないだろう……とシンは言い返す。
「……そうだな」
 確かに、とレイは頷く。
「どうかしたのか?」
 そんな彼に、シンは逆に聞き返した。
「興味があっただけだ。これだけの動きが出来るパイロットに」
 レイは淡々とした口調でそう告げる。
「そうだよな、確かに」
 パイロットが《キラ》だ、と言うことを差し引いても、フリーダムの動きは他のMSより優れている。だが、カリダ達の言葉からすれば、彼はヘリオポリスが崩壊する暇で、ただの学生だったはず。
 それなのに、一年も経たないうちにどうやってこれだけの実力を身につけたのだろうか。コーディネイターだとしても、そんなことが出来る人間は多くないはずだ。
 それが彼の不幸だったのかもしれない。
 こう考えてしまうのも、キラがどのような子供だったのかを自分が知っているからだろう。
「あってみたい、とは思う」
 シンの耳に、レイのこの呟きが届いた。



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