プラントでも差別がないわけではない。
 それでも、とシンは心の中で呟く。自分が努力すれば、それを認めてくれる。それだけも十分、と思ってしまうのは、オーブでの扱いを思い出したからか。
 もちろん、そんな自分を認めてくれた人たちもいる。
 しかし、それはあくまでも個人であって、国ではない。
 だが、ここでは違うのだ。
「しかし……面倒だな……」
 上位十人に渡される紅い制服に袖を通した瞬間、妙に棘を含んだ視線が向けられるようになった。
 それが鬱陶しい。
 これならば、いっそ、直接手を出してくればいいのに、とすら考えてしまう。
「気にするな」
 それがわかったのだろうか。隣を歩いている少年がこういってきた。彼もまた、シンと同じように紅を纏っている。
「わかっているけどさ、レイ」
 鬱陶しい、とシンは言い返す。
「そう言うな。あいつらはそうやってお前が自滅するのを待つしかないんだ」
 自力で《紅》を手に入れられない連中だからな、とレイは涼しい顔で手厳しいセリフを口にしてくれる。
「お前は自分の実力で《紅》を手に入れたのだ。誰に恥じる必要もない」
 さらに彼はこういって淡い笑みを口元に浮かべた。
「レイにそう言ってもらえると、何か安心する」
 何でだろうな、とシンは首をかしげる。
「でも、プラントに来て一番よかったのは、お前と友達になれたことかもしれない」
 ライバルであり何でも話せる彼と会っていなかったら、今頃自分は挫折していただろう。そう言いきれる。
「それは、ルナには聞かれない方がいいセリフだな」
 シンのその言葉に、レイは笑みに苦いものをくわえながら言った。
「……まぁ、そうかもな」
 一つしか違わないくせに、彼女はシンに対してやたらとお姉さんぶるのだ。きっと、それは彼女がメイリンの姉だから、だろう。自分だって、マユの友人達には同じような行動を取った記憶があるのだ。
「ともかく、今日のシミュレーションは負けないからな」
 とりあえず、とシンは話題を変えた。
「それは俺だって同じだ」
 ここしばらく、シンに連敗している。だから、今日は勝つ、と彼も言い返してきた。
「きっと、ルナも同じ事を言うと思うぞ」
 レイがさらに言葉を口にしたときだ。
「あたしが、どうしたって?」
 こういいながら、本人が間から顔を出してきた。
「今日のシミュレーションで誰が勝つかという話だ」
 相手に負けないと言うに決まっているだろう、とレイは説明をする。
「当然でしょ。今日は絶対に負けないわよ」
 何馬鹿なことを言っているの、とルナマリアは言い返してきた。
「……何なら、一番負けた人間がおごるっていうのは?」
 さらに、こんなことまで彼女は口にする。
「それで後悔しないなら良いけどな」
 ぼそっとレイが呟いた。
「言い出しっぺが逃げるとかな」
 シンも笑いながらこういう。
「そんなことを言って、後悔するのはあんた達の方なんだから!」
 見ていなさいよ、と彼女は頬をふくらませる。それに、シンもレイも笑いを漏らした。

 結果がどうなったのか、それはあえて言わないでおいた方がいいだろう。



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最遊釈厄伝