寄せてはひいていく波の動きを、キラは静かに見つめていた。
 単純な繰り返しではないそれはきっと、地球という星の鼓動なのではないか。
 小さな頃は、これを実際に見てみたいと言ってハルマを困らせていたような記憶もある。その時、彼は何と言って自分をなだめてくれたのだろうか。
 そう考えたときだ。
 小さな足音がこちらに近づいてくる。
「ここにいたの、キラ」
 耳に慣れた柔らかな声が周囲に響く。
「母さん……」
 どうして彼女がここに、と思いながら呼びかける。
「カガリ様がみんなを見てくれるとおっしゃってくださったし、アスラン君もいるから押しつけて来ちゃったの」
 ふふふ、と笑いながら、彼女は言葉を返してきた。
「押しつけてきたって……」
 アスランはともかく、カガリは大丈夫なのだろうか。心の中でそう呟いてしまう。
「だって、そうしないとキラとゆっくり話が出来ないでしょう?」
 たまにはキラと話がしたいわ、と彼女は続ける。
「母さん……」
「……たくさん隠し事をして悪かったと思っているの。でも、間違いなく母さんも父さんも、キラを自分の息子だと思っているわ」
 血のつながりよりも、過ごしてきた時間の方が重要だ。そう考えていた、と彼女は続ける。
「それに……約束をしたの。あなたには何も教えないって」
 ヴィアと、と彼女は呟くように口にした。
「……どうして?」
「だって、自分自身に変な偏見を持って欲しくなかったから」
 キラはあくまでもキラだ。
 それ以外の何者でもない。
「第一、あなたを特別だと思っていたのは、ユーレンだけだもの」
 ヴィアも他の者達も、無事に生まれることをだけを願っていた。
「特に姉さんは、あなたが大きくなっていく様子を幸せそうに見ていたわ」
 だから、二人を預かり、どちらか一人だけを手元に残せ、と言われたときにためらうことなくキラを選んだのだ。カリダはそうも告げる。
「ハルマも、それに反対しなかったわ」
 その後、彼がどのようにキラに接していたのか。それは欲覚えている。
 人としていけないことをすれば厳しくしかられた。だが、それ以外のことはおおらかに見守ってくれていたように思う。
 そんな父がいたから、自分は安心していられたのだ。
 なのに、とキラは思う。その彼は、もう居ない。会いたくても会えないのだ。
「……あの人は、最後まであの人らしい選択をしていたわ」
 最後まで、誰かのために行動をしていた。そうカリダは教えてくれる。
「ここに、シン君がいれば、もっと色々な話をしてくれたのにね」
 しかし、彼女の口からキラの知らない名前が出た。
「シン?」
「……父さんが、最後に助けた子よ」
 オノゴロで、と言われて、キラはある面影を思い出す。
「……黒髪の子?」
 確か、そんな少年がハルマの傍にいたような気がする。そう考えながら問いかける。
「えぇ。そうよ」
 そうすれば、カリダは直ぐに頷いて見せた。
「今は……プラントにいるの」
 彼は第二世代のコーディネイターだったから……と彼女は続けた。
 その理由は聞かなくてもわかる。
「……カガリも、頑張っているようだけど……」
 しかし、彼女は自分たちと同じ年齢なのだ。どうしてもセイランに言いくるめられてしまうことが多い。彼女にしてみれば、それは認められないことなのだろう。
「でも……僕は……」
 表に出てはいけないのだ。これ以上、世界を混乱に陥れてはいけない……とキラは心の中だけで付け加える。
「わかっているわ、キラ」
 そんな彼の頭を、カリダがそっと抱きしめてくれた。
「たくさん悩んで、それから決めなさい」
 いつまでも待っているから……と彼女はそのまま囁いてくれる。その温もりがキラの心に優しく伝わってきた。



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