子供達の様子を見ていると、少しだけ心が動くような気がする。
 しかし、だ。
 だからこそ、自分は彼等の傍に行ってはいけないように思える。
「……だって、僕は《人》じゃないから……」
 だから《他人》と触れあってはいけないのだ。小さな声でそう呟く。
「父さんは、知ってたのかな?」
 自分が普通の生まれ方をしていなかったと、とキラは付け加えた。
 母はきっと知っていたのだろう。自分の卵子提供者である女性ヴィアカリダは姉妹だったと聞かされたし……とため息をつく。
「僕があの時、カガリを追いかけなければ、どうなっていたのかな」
 世界は、と続ける。
 まだ、戦争が続いていたのだろうか。それとも、と付け加えてキラは言葉を飲み込む。
 今更、それを言っても仕方がないだろう。
 戦争が終わって喜んでいる人がちが大勢いることも否定できない事実だ。
 自分だって――最初はともかく――そのために戦ってきた。しかし、その過程で、あんな事実を突きつけられるなどとは考えたこともなかった。
「あの時、父さんは何を話そうとしたのかな」
 ふっと、最後にハルマの姿をみったときのことを考えて、そう呟く。
「そう言えば、あの時、父さんの傍には知らない子がいたっけ」
 でも、オノゴロにいたと言うことはきっとモルゲンレーテの社員の関係者なのだろう。あるいは、ハルマの知人の子供だったのではないか。何かあって、両親とはぐれたところをハルマが保護したのかもしれない。
 彼ならば、きっとそうだろう。そう言う性格の人だった、とキラは心の中で呟く。
 だから、自分のような化け物そんざいもあれだけ慈しんでくれたのではないか。
 それなのに、自分は……とため息をつく。
「……あの子は、無事だったのかな?」
 そう言えば、と思いながら首をかしげる。
 調べようと思えば調べられるのかもしれない。しかし、今はその気持ちになれない。
 もし、彼も命を落としていたら……と思えば怖くてたまらないのだ。
 知らなければ、可能性は残される。そして、自分はその可能性を信じていればいい。それだけで、少なくとも、ハルマの行動が間違っていなかったのだ、と思えるのだ。
 そして、それだけで十分だと心の中で呟く。
「僕はもう……自分の感情だけで動いちゃいけないんだ……」
 そうすることで、また、世界を混乱に巻き込んでしまうような気がする。
 だから、と小さな声で付け加えた。
「ここで、誰にも会わずに暮らしていたいのに……」
 どうして、みんな、それを許してはくれないのだろうか。
 特に、幼なじみの彼と同じ両親の遺伝子をひいているとわかった彼女は、とため息をつく。
「僕には、何も出来ないのに」
 出来るのは、何かを破壊することだけだ。だから、とため息をつく。
 もちろん、もう何度もそれは彼等に伝えてある。
 一緒に聞いていたラクスはそれで納得をしてくれた。
 しかし、あの二人はどうしても聞き入れてくれないのだ。
 逆に、彼等は自分を表舞台に引っ張り出そうとしている。
 それは、カガリの味方が少ないからだろう。代表首長になったとはいえ、無条件で彼女の味方といえるのは本当に一握りの存在でしかない。そして、その多くが政治的には強い立場を持っていない者達なのだ。
 しかし、自分の存在が公になれば、きっとオーブ国内は混乱に陥る。ただでさえ不安定なカガリの立場がさらに悪化する可能性だってあるのだ。
 どうして彼等にはそれがわからないのだろう。
 そんなことを考えていたときだ。ドアの向こうからまたいつもの足音が聞こえてくる。
「今日も、来ていたんだ……アスラン……」
 小さなため息とともにキラはそう呟く。
 このまま、ここにいては彼等の話を聞く羽目になってしまう。
「どう、しよう」
 そう言いながら、周囲を見回す。そうすれば、ベランダから外が見えた。
 ここにいるよりは外の方が見つからないかもしれない。そう考えると、ゆっくりと立ち上がった。



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最遊釈厄伝