戦争が終わったのは、それからしばらくしてのことだった。
 どちらが勝った、と言うわけではない。それでも、これ以上の戦闘がないのは事実だ。
 誰もがその報告に喜んでいた。
 しかし、だ。
 それからいくら待っても、彼は帰ってこなかった。
「……何でも、プラントで留め置かれているらしい……」
 そう教えてくれたのは、最初に自分を保護してくれた軍人――トダカだった。
「留め置かれているって……何で?」
 キラはオーブの人間なのに、とシンは聞き返す。
「そこまでは、こちらには伝わってないのだ」
 カガリに関しては解放されたようだが、と彼はため息を吐く。
「アークエンジェルをはじめとする者達はあちらで何か取り調べをされているとか」
 それでも、彼等は今はオーブ所属のナチュラルだ。プラント側としても迂闊に処分は出来ないのではないか。
 何よりも、戦争を終わらせる引き金となったのは彼等の行動だし……と彼は続ける。
「それなら、あの人だって……」
 キラだって、オーブの人間ではないか。シンはそう言い返す。
「……そうかもしれないが……」
 しかし、それだけではすまない何かがあるのだ……と彼はため息を吐く。
「何だよ、それ!」
「……セイランの方々がな」
 声を潜めると、トダカはそう言った。
「カガリ様は動いておいでのようだが、あの方はまだお若い」
 だからこそ、厄介なのだ。そう彼は続ける。
「わかりました」
 今まで黙って話を聞いていたマルキオが、ゆっくりと口を開く。
「あちらにも、私の言葉に耳を貸してくださる方々がおいでです。キラ君のことを確認してみましょう」
 そして、出来るならば母君の元へお返しして頂けるよう頼んでみよう。彼はそう続ける。
「申し訳ありません、マルキオ様」
「気になさらないでください、カリダさん。彼を小さい頃から知っていますからね。当然のことです」
 自分も彼に会いたいし、とマルキオは微笑む。
「それに……今回のことに関して、私にも責任の一端はあるでしょう」
 だから、と続けられたのはどうしてか。理由はわからない。
 でも、彼に帰ってきてもらわなければいけないのは、シンにしても同じだ。
 なじられるかもしれない。でも、ハルマから預かったディスク――カリダの言葉でいまでもシンが預かっている――を彼に返さなければいけないのだ。
「……ウナト様にも困ったものです」
 ため息とともにトダカが呟く。
「あの方が地球連合側の方だとは知っておりましたが……」
「トダカさん」
「申し訳ありません。つい愚痴を」
 大きな体を小さくしながら、彼は慌てたように言葉を口にした。
「いえいえ。人の愚痴を聞くのも私の役目ですから、お気になさらず」
 ただ、といいながらマルキオは視線をシン達の方へ向けてくる。それだけでカリダにはわかったのだろう。
「シン君。みんなの様子を見てきてくれるかしら?」
 微笑みと共に彼女はそう言ってくる。
「おばさん」
「お願いね?」
 本音を言えば、ここから離れたくはない。
 だが、自分がここにいても何も出来ないことはわかっていた。
「わかりました。おやつはいつもの所に?」
「えぇ」
 笑みを深める彼女にシンは頷く。そして、その場を後にした。



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最遊釈厄伝