彼がヘルメットを外す。そうすれば、亜麻色の髪と大きなアメジストの瞳が顕わになった。
 そのまま彼――キラはハルマへと駆け寄ろうとする。
「キラ……まだ、戦闘は続いているのだろう?」
 だが、そんな彼に向かってハルマが静かに制止の言葉を投げかけた。
「父さん?」
「私たちは大丈夫だ。救援の船もまだ港にいるのだろう?」
 そこまでであれば、自分の足でも間に合うはずだ。彼はそう続ける。
「でも、父さん……」
 しかし、キラは不安を隠せないようだ。
「父さんを信じなさい。それに、お前がここにいることで代わりに命を落としている人たちがいるのだろう?」
 だから、とハルマは笑みを浮かべた。
「自分が何を優先しなければいけないのか。それを考えなさい」
 この言葉に、キラは一瞬唇をかみしめる。
「話したいことが、たくさんあるんだ……だから……」
「わかっているよ、キラ。私もお前に話しておかなければいけないことがある」
 だから、必ず会いに行く。ハルマは笑みを深めた。
「きっとだよ、父さん」
 こう言いながらも、彼は直ぐには動けなかったらしい。その気持ちはわかる。いくらそう言っても、絶対と言いきれないのだ。
 それでも、キラはコクピットの中に姿を消す。次の瞬間、そのMSはまた空へと戻っていった。
「私たちも、急がないとね」
 その姿を目で追いながら、ハルマは呟くように告げる。
「そうだな」
 シンの父が彼の言葉に頷く。
「しかし、どうして君の息子さんが……」
「わからない。だが、あの子にもいろいろとあったのだろう」
 だからこそ、話をしたいと言ってくれたのではないか。ハルマは静かな声でそう告げる。
「なるほど」
 確かに、現状では何があってもおかしくはない。そう言うことだね、とシンの父は言う。
「お父さん! それにおじさんも……早く逃げないと」
 その時だ。マユの声が周囲に響く。
「……わかっているよ」
 言葉とともに父はハルマに視線で合図を送る。それに彼が頷き返したのを確認して、シン達は再び避難を開始した。

 それなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
 あと一息で避難船にたどり着くと思ったのに……とシンは、呆然と周囲の様子を見回す。
 確か、と彼の脳裏にその時のことが思い浮かぶ。
「マユの携帯!」
 言葉とともに彼女が足を止めた。どうやら手にしていたそれを坂の下に落としてしまったらしい。
「今はそれどころじゃないでしょう!」
 母がそう言って彼女の腕を引っ張る。
「いや! マユの携帯!!」
 あれがないと困るの! と彼女は逆に、その場から動こうとはしない。こういう時のマユがどれだけ頑固かは自分もよく知っている。そして、彼女はいくら説明されても携帯が手元に戻ってこないうちは納得しないだろう。
「ちょっと待ってろ」
 仕方がない、とシンは斜面を駆け下りる。そして、それを手に取った。
 その時だ。
 いきなり空が暗くなる。
「MS!」
 いったい、どこの……と思う。
 だが、それを確認する前に周囲が爆音と粉塵にに包まれる。衝撃波に、シンの体はさらに斜面の下へと転がり落ちた。その間に、木の根や何かにどれだけ体をぶつけただろう。全身が痛む。
 それでも、何とか元いた場所までよじ登ってきた。
 だが、そこには父も母も、マユも……そして、ハルマの姿もない。
 ただ、何か細いものが転がっているだけだ。
 それは何だろう。そう思ってゆっくりと歩み寄る。
 そして、それが何であるのか認識した瞬間、シンの目が大きく見開かれた。
「嘘、だろう」
 そんな彼の頭の上を、またMSが通り過ぎていく。
「うわぁぁぁぁっ!」
 それが空気を切り裂く音に負けないくらいの絶叫が、シンの喉から飛びだした。



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