いきなり、目の前の道が崩れる。それに、シンはバランスを崩した。このままでは、下まで転げ落ちてしまう。そう焦ったときだ。
「大丈夫だね?」
 こう口にしながら体を支えてくれたのは、父の同僚の男性だった。
「はい」
 ありがとうございます、とほっと胸をなで下ろしながらシンは言い返す。
「それはよかった。でも、気をつけなければいけないよ」
 いくらコーディネイターとは言え、シンはまだ子供なのだから。自分の身体能力を過信してはいけない。静かな口調で彼はそう付け加えた。
 他の人間の言葉なら無視をしていただろう。ナチュラルにコーディネイターの何がわかるというのか、と思うからだ。
 しかし、彼の一人息子は自分達と同じコーディネイターだと聞いている。
 ただ、と心の中で付け加える。あのヘリオポリスの崩壊のときに行方不明になってしまったらしい。
 だから、年齢の近い自分にその面影を重ねているのではないか。
 そういったのは母だ。それでも、それがいやではないのは、彼が適度な距離というものを知っているからかもしれない。
 そんなことを考えていたときだ。
「シン!」
 父の声が耳に届く。視線を向ければ、彼が駆け寄ってくるのが見えた。その後ろには母と妹の姿もある。
 どうやら、先に行ったシンを心配して追いかけてきたようだ。
「ダメじゃないか、一人だけ勝手な行動をしては」
 マユが泣きそうだったぞ、と彼は続ける。
 その言葉に、シンの心の中に後悔に似た感情が生まれた。だからといって、素直に謝れない。
「だって、父さん……」
 シンは思わず反論しようとした。
「ハルマくん、すまなかったな。愚息が迷惑をかけたようだ」
 だが、父は彼の言葉に耳を貸そうとはしない。かわりにハルマへと視線を向けるとこう告げる。
「何。当然の事をしたまでだよ」
 男の子だからね、と微苦笑とともにハルマは言い返す。
「それよりも急いだ方がいいね」
 ここもすぐに危険になる。
 彼がそう言った瞬間だ。こちらの存在に気がついたのだろう地球軍のMSが彼等に向かって照準を合わせたのがわかった。
 このままでは、とシンは表情を強張らせる。
 そんな彼の体を庇うかのようにハルマが己の腕の中に抱き込んだ。
 もちろん、そんなことをしても意味はないと彼にもわかっているだろう。それでも、少しでも可能性があるのであれば、と思ったのではないか。
 視界の隅では自分の両親が同じように妹の体を抱きしめている。  それでもMSの動きは止まらない。
 ひょっとして自分達はこんなところで死んでしまうのだろうか。
 そう思ったときだ。
「……えっ?」
 目の前で、そのMSが四散する。
 その爆煙をかいくぐって、見たことがない蒼翼を持ったMSが近づいてきた。そして、シン達を落下してくる破片から守るかのように手を広げた。
「こいつ、味方?」
 だが、M−1アストレイとはシルエットが違う。
 第一――言葉は悪いが――オーブ軍の者達にあれだけの射撃を出来るパイロットがいるだろうか。
 そう心の中で呟いたときだ。
『父さん、どうしてここに!』
 自分とそう変わらないと思われる少年の声が機体から響いてくる。
「キラ?」
 ハルマがそう呼びかけた。それに、答えるかのようにその機体が静かに着陸をする。
「父さん!」
 ハッチが開いたかと思えば、そこからパイロットスーツに身を包んだ少年が身を乗り出してきた。



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最遊釈厄伝