「パトリック・ザラの示した道こそが、我らコーディネイターにとって唯一正しき道だったのだ!」
 言葉とともにジンのパイロットが攻撃をしかけてくる。
「……何を言っているんだか」
 そんな彼に向かって、アレックスはあきれたように呟く。
「あの男は、ただ一人の存在に捕らわれたあげく、それを失ったからと言うって世界を破滅させようとした大馬鹿者だ!」
 そのためであれば、己の血をひく存在であろうと道具にしようとした。
 もっとも、その道具はその事実に気が付いた瞬間逃げ出したが……とアレックスは唇をゆがめる。
「お前達が口にした言葉も、ただの妄言だ!」
 あの男のな、と吐き捨てるように言葉を投げつけた。
「……なっ!」
 流石にこの言葉は予想していなかったのか。相手が絶句している。
「コーディネイターの未来も、プラントの将来も、パトリック・ザラにはどうでも良かったと言っているんだよ」
 レノア・ザラが死んだその日から、とアレックスはさらに言葉を投げつけた。
「自分の息子ですら、あの男はしばらく存在を忘れていたからな」
 思い出したのは、アカデミーを卒業するときだっただろうか。
「いい加減なことを言うな!」
 ようやく衝撃から抜け出したのか。それとも、自分が信じた事実を守ろうとしているのか――おそらく後者だろう――男が再び攻撃を加えてくる。しかし、それはどう見ても逆ギレだとしか思えない。それだけ、攻撃の精度が落ちていた。
「……馬鹿な奴だよ」
 大切なものを失ったと言うことは確かに同情に値をする。
 だからといって、世界を壊していいのか。そう問いかければ、少なくともアレックス自身は『否』という結論に達してしまう。
 何よりも、自分にとって一番大切な存在がそれを望んでいないのだ。
「お前の正義と俺の正義が相反する以上、しかたがない」
 戦うことを彼は望んではいない。それでも、これ以上彼を傷つけさせないためにも、自分は目の前の男を排除しなければいけないのだ。
 そして、ユニウスセブンを破砕しなければいけない。
「世界を、再び混乱の渦に巻き込むわけにはいかないんだ!」
 アレックスはその言葉とともにビームライフルの照準をロックする。
「お前は、お前の望んだ世界へと逝けばいい!」
 そこはきっと、優しい世界だろうから。
 もっとも、自分はそこに行くつもりはない。
「俺は……俺たちは、この世界で幸せになる!」
 そのために、貴様達の存在は不要だ!
 この叫びとともに、アレックスは引き金を引いた。

 シェルター内にラクスの歌声が響いている。その優しい優しい調べに、子供達は少しだけ恐怖を忘れているようだ。
 そして、自分は……とキラは自分の膝の上で眠っている子供の髪をそうっと撫でながら心の中で付け加える。自分の側にある温もりでいやされているのだろうか。
 それでも、とさらに言葉を重ねる。
 一番安心できるのは、彼の温もりだ。
 でも、それは今は遠い。何よりも、彼の存在は他の者達にも必要とされている。この場合、我慢しなければいけないのは自分だろう。
 それはわかっていても、どうしても彼に側にいて欲しい……とそう思ってしまうのだ。
 そんな自分が浅ましいとも感じてしまう。
 気分を変えたくてキラがちいさなと息をついたときだ。
「何?」
 シェルター内にも激しい振動が伝わってくる。
 きっと、それはユニウスセブンの破片が近くに落ちたからだろう。
「……恐いよ……」
「僕たち、死ぬの?」
「お家、大丈夫かな?」
 子供達の口からこんな言葉がこぼれ出す。
「大丈夫だよ」
 自然と、キラの唇から言葉がこぼれ落ちていた。
「大丈夫。みんなを死なせないから」
 そんな自分に驚きながらも、キラはさらに言葉を重ねる。
 自分のことだってうまくコントロールできていないのに、どうしてこんなセリフを口にできるのか。そうは思うが、子供達がそれだけで安心したような表情を浮かべているのを見ては自分の感情を表に出すことなんてできなくなってしまう。
「そうですよ。私たちは大丈夫です」
 家がなくなったとしても、また建てればいい。大切なのは、生きていることだから……とマルキオが言葉を口にする。
「ですから、落ち着きましょう」
 彼の穏やかな声に誰もが頷く。
「ラクス」
「今度は何を歌いましょうか。それとも、みんなで一緒に歌いますか?」
 どうしましょう、といつもの口調で彼女は周囲の者達に問いかけている。
「お歌、歌って!」
 即座にこんな声が飛び出す。
「わかりましたわ。今度は元気が出るようなお歌を歌いましょうね」
 ラクスが微笑みと共にこう告げる。そして、ゆっくりとまた曲を口ずさみ始めた。