よほど慌てて避難をしていったのだろうか。基地内の様子は荒れ果てたものだ。
「……見苦しい……」
 軍人であれば、最後までデュランダルを守るべきなのに……とレイが呟いている。それは、彼の本音なのだろう。
「でも、そのおかげでこうして進めるんだから……善し悪しだよね」
 でなければ、こんなにすんなりと通してもらえないだろう。キラはそう言い返す。
「そうかもしれませんが……」
 だが、納得できない……と呟くレイに罪はないだろう。彼の立場であれば、この状況は許し難いと思えるだろうから、とキラは心の中で呟く。
「議長は、どこにいらっしゃると思う?」
 通路に立ち止まりながら、キラはこう問いかけた。
「まだ司令室にいると思います」
 でも、とレイは不安そうにキラを見つめてくる。
「やはり、アレックスさんを待った方がいいのではありませんか?」
 軍人は逃げていても、自動の防御装置は生きているだろう。それでなくとも、何か会ったときに対処できる者がいた方がいいのではないか。
「……僕って、そんなに頼りない?」
 確かに、アレックスに比べれば生身での戦闘能力は劣るかもしれない。でも、相手が機械であれば大丈夫だ、とキラは思う。
「そういうわけではありません」
 ただ、とレイは下を向く。
「俺は、キラさんにも傷ついて欲しくない」
 そのまま彼は胸のあたりをそっと抑える。そこに何があるのか、キラは知っていた。
「ありがとう」
 そう言って微笑み返す。
「だからこそ、先に行っていたいんだ。デュランダル議長も、いきなり僕を撃ったりしないだろうし」
 万が一の時には、君が止めてくれるだろう? とレイに問いかけた。
「俺が裏切るとは思わないんですか?」
「その時は、その時だよ」
 彼に向かって微笑みながら、キラは言葉を返す。
「……君には、そうする権利があるから」
 さらにこう付け加えれば、レイは驚いたように顔を上げる。
「……キラさん?」
「それに、アレックスが来ると色々とうるさいから……多分、必要なときには来てくれるよ」
 だから、大丈夫。そう付け加えれば、レイは小さく頷いてみせた。

 その判断は正しかった。
 キラ達がその場を立ち去ってすぐに、アスランが乗ったシャトルがデッキ内に滑り込んできたのだ。
「……フリーダム……」
 コクピットから出ると同時に、その姿が視界に飛び込んでくる。
「やっぱり、ここにいたんだね」
 キラ、とアスランは満足そうに笑う。
「今、行くからね」
 ゆっくりと話をしよう、と呟きながら、足を踏み出す。
「君にとって、俺はもう、必要ない人間なのかどうか。それを確認しないと」
 どこかおぼつかない足取りで進んでいく彼の背後を、小さな音を立てて追いかけていくものがあることに、誰も気付いていなかった。

 かなり強引に、インフィニット・ジャスティスを着岸させる。
「遅かったか……」
 目の前に放置されているシャトルを見て、アレックスはこう呟く。
「ステルスが追いかけているはずだ、と言っていたな」
 こう言いながら、腰に付けていたポーチから端末を取り出す。何かあれば、これにステルスからの警報が届くはず。
「キラは……先に行っているか」
 同時に、キラの端末の位置を確認しておく。
「大丈夫だと判断をしたのだろうが……急いだ方がいいな」
 何があるかわからない以上、自分が側にいた方がいい。ここ数日、キラの様子がおかしかったからなおさらだ。
「……キラ」
 お前は、いったい、どのような結論を出すのだろうか。
 その結果、自分はどうすればいいのか。
「……今は、それを考えているときではないな」
 それに、とアレックスは心の中で呟く。自分たちが共に過ごした時間は、この程度のことで消えてしまうようなものではなかったはず。だから、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせる。
「ここで、全ての決着を付けないと、な」
 そのためにも、少しでも早く、キラに合流しなければいけない。
「最短ルートは、これか」
 アレックスは脳内にルートをたたき込む。そして、即座に行動を開始した。