気がつけば、デスティニーをはじめとしたMSもミネルバも、その動きを止めていた。 それがどのような意味を持っているのか、わからないデュランダルではない。 「……まさか、私が負けるとはね」 自分の計画が間違っていたとは思えない。 ただ、彼等の方に少しだけ天秤が傾いただけなのだ。 「それも《運命》と言うわけだ」 後悔がないとは言わない。 それでも、心のどこかで納得をしている自分がいることにも気付いていた。 だが、とデュランダルは唇をゆがめる。 「まだ、私にも幸運は残っているのかもしれないね」 自分以外、誰もいなくなった司令室。 そのモニターにこちらに向かってくるフリーダムの姿が映し出されている。 「君さえ手に入れられれば、それで構わない」 言葉での戦いなら、自分の方に有利だ。 彼はそう信じていた。 「本当によかったのですか?」 フリーダムを操っているキラに向かって、レイは問いかける。 「……後で、バルトフェルド隊長には怒られるかもしれないね」 でも、ラクスもアレックスも共犯だから……とキラは苦笑を浮かべながら言葉を返してきた。だから、大丈夫じゃないかな、とも。 「それに、もう一度、会って話をしたいでしょう?」 デュランダルと、と彼はさらに言葉を重ねてくる。 「キラさん……」 「話が出来る機会があるなら、した方がいいと思うんだ。君自身の言葉で」 本当はどうしたかったのか。それを彼に伝えればいい。キラはそう言ってくれる。 「……それが出来なかったから、多分、僕たちは間違えたんだ……」 しかし、この呟きは何なのか。 「キラさん、ひょっとして」 思い出しているのか。そう問いかけようとしてレイは言葉を飲み込む。もし、違うことを指して言っているのであればやぶ蛇になりかねないのだ。 「それにしても、静かだね」 レイの言葉を別の意味に受け止めたのか。それとも、聞かなかった不利をしてくれているのか。キラはこんな呟きを漏らす。 「ギルの性格から判断をすれば……多分、ここにはもう、彼以外、誰もいないと思います」 どのような結果になるのかはわからない。だが、自分が無様だと考えているような姿を人目にさらすようなことはしないだろう。 何よりも、とレイは唇を噛む。 結局、彼の言葉はラクス・クラインのそれよりも人々の心に響かなかったのだ。 それがどうしてなのか……と考えてもレイにはわからない。自分にとって見れば、彼の言葉以上に惹きつけられるものはないのだ。 もっとも、それは個人的な意識が関わっていることもわかっている。 「……そういえば、アレックスさんは?」 彼も承知しているというのであれば、キラをこんな風に一人で行動させないような気がするのだが。そう思いながら問いかけた。 「エターナルによってから来るって。多分、僕たちの方が先につくね」 何か確認することがあると言っていたよ、と付け加えられた言葉に、一抹の不安を感じる。 「取りあえず、デッキに着けるから……」 しかし、この言葉にそれを一時的に棚上げにすることにした。 エターナルのブリッジにはブリザードが吹き荒れていた。そう言いたくなる光景に、ダコスタ達は既に逃げ腰だ。 しかし、それを生み出している当人達はまったく意に介していない。 『もう一度言え! ラクス・クライン』 普段は穏やかな口調で会話を交わしているはずの彼が、このようにさっきに近い感情を向けている。その事実も今は当然だろう、とラクスは考えていた。 「アスランが脱走しました。ブラックちゃんのバッテリーを交換しようとした一瞬を突かれました」 こちらのミスだ、とラクスは素直に謝罪の言葉を口にする。 「エターナルのシャトルを奪って、現在移動中です」 目的地は言わなくても想像が付くのではないか……と言外に付け加えた。 『本当に、状況がわからない奴だな、あいつは』 地を這うような低い声が、またブリッジの温度を下げたような気がする。 「不幸中の幸い、と言っていいのかどうかはわかりませんが、ステルスちゃんはまだ追尾中ですわ」 それとは別の意味でとんでもないセリフをラクスが口にしてくれる。 『……まぁ、確かにあれが付いていれば最悪の事態だけは避けられるだろうな』 キラの安全を最優先事項としてプログラミングしてあるから……とアレックスはため息をつく。 『ともかく、俺も早急にキラと合流をする。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだが、その時は頼むぞ』 何を、と言われなくてもラクスには想像が付いた。 「わかっておりますわ。ただ、キラが傷つくようなことだけはしないでくださいませね」 彼が見ていないところであれば何をしても構わないから……と思っていることが十分に伝わったことだろう。 『善処しよう』 アレックスはため息とともに頷いてみせる。どうやら、釘を刺されたのが気に入らないようだ。 『ともかく、俺はキラ達を追いかける。こちらのことは任せてかまわないな?』 代わりにアレックスはこう問いかけてくる。 「もちろんです。それがわたくしの役目ですから」 微笑みを返せば、彼は小さな笑みを口元に刻む。そのまま、回線を切る。 エターナルのブリッジからも遠ざかっていくジャスティスがしっかりと確認できた。 |