アークエンジェル及びエターナルがレクイエム発射口に向かっている。
「……やはり出てきたね……」
 その報告を耳にした瞬間、デュランダルは小さな笑みと共にこう告げた。
「君達は、どうあがいても私の言葉を受け入れてくれないのか」
 ならば、と彼は表情を引き締める。
「レクイエムの発射準備を。目標は、オーブ、オノゴロ島」
 その唇からはき出された言葉に、ザフトの将兵達とはいえ、驚きを隠せないようだ。あるいは、その地に知己がいるのか。
 だが、自分に従うと決めたのであれば、その他のものは全て振り切って貰わなければいけない。
「オーブ、オノゴロにレクイエムの照準を」
 再度、同じ言葉を口にする。
 それに、彼等はようやくデュランダルが本気だと理解したのか。のろのろと動き始める。それは、普段の彼等の動きからすればほど遠いものだ。
「オーブさえ陥落すれば、後は逆らうものはいなくなる。二度と戦いのない世界が来るのだ」
 だから、これは必要なことなのだ……とデュランダルは言葉を重ねる。
 それが功を奏したのだろうか。
 ほんの少しだけ彼等の動きが本来のものに近づく。
 それでも、自分たちの手で――厳密には違うのかもしれないが――民間人を大量に虐殺するかもしれない。その事実がまだまだ彼等の上に重くのしかかっているようだ。
 それに関してはしかたがないだろう。
 それでも、とデュランダルは視線をモニターに戻す。
「これは、必要な犠牲なのだよ」
 平和という《神》に捧げられる生け贄なのだ。そう口の中だけで呟く。
 何よりも、と彼はそっと目を閉じる。その瞬間、養い子の面影がまぶたの裏に浮かんだ。
 彼を奪ったのはオーブだ。
 その恨みがこの判断を下させたのかもしれない。
「私も、ただの人間だった……と言うことかね」
 レイ、と呟く声に面影は答えを返してはくれなかった。

 しかし、彼の思惑は予想外の所から崩れた。

 一足先にフリーダムとインフィニットジャスティスが発進した。
 それは、ミーティアユニットとの接続のための時間を確保するためでもある。もちろん、その二機に関しては活動時間を気にしなくていいという理由もあった。
「……接続完了」
 全てのセンサーが異常を伝えてこない。その事実を確認して、キラはこう呟く。
『キラ?』
「うん、わかっているよ」
 二手に分かれて、それぞれの目標を破壊する。そんな自分たちをオーブ軍を含めた者達が護衛してくれることになっていた。
 アレックスと別行動をとらなければいけない。
 その事実に不安を感じてしまう。でも、そうすることが一番確実である以上、しかたがないことだ。キラは自分に言い聞かせるように心の中でこう呟いた。
『大丈夫だ、キラ。危険度であれば、お前の方が大きいんだぞ』
 自分の方を片づけたらすぐに追いかけるから。アレックスはそう囁いてくれる。
「うん……わかっているけど……」
 それでも、何が起こるかわからないのだ。
 自分はいつから、こんな風に彼と離れることを不安に思うようになったのだろうか。
 ふっとそんなことを考えてしまう。
『なら、俺を信じろ』
 いつだって、自分はキラとの約束を破ったことはないだろう? と彼は続ける。
「そう、だね……」
『だから大丈夫だ』
 ここまで言われてはキラにはもう、何も言い返せない。
「……絶対、追いかけてきてね」
 それでも、キラは確認するようにこう口にする。
『わかっている』
 彼の笑顔が、キラに少しだけ勇気をくれた。

 気がつけば、エターナルの周囲にザフトのMSが集まっている。
 しかし、それは攻撃のためではない。その逆だ。
「……これは……」
 ラクスが驚きに目を見張る。
「どうやら、ラクスさまのお言葉に耳を貸してくれる者達は、ザフトにもいた……と言うことでしょうね」
 それとも、デュランダルの提唱したデスティニープランに賛同できない者達なのか。
「自分の未来は自分の手でつかみたい。そう思われている方々がこれほど大勢いる。その事実を、貴方はどう受け止められているのでしょうか」
 ラクスは小さな声でこう呟く。
 だが、すぐに視線をあげた。
「では、このまま廃棄コロニーへと向かいましょう。少しでも早く、あれを破壊しなければいけません!」
 もう二度と、あれで命を失い人が出ないようにしなければいけない。
 その言葉に、誰もが頷いてみせる。そして、そのままエターナルは速度を上げた。