カガリの言葉を、デュランダルの《ラクス・クライン》が非難しようとした。
 しかし、それよりも早く、ラクスがカガリの側に姿を現す。
「……格がまったく違うな」
 相手には悪いが、とアレックスは呟く。
「彼女は、自分の言葉で人々に呼びかけていないから……与えられた言葉しか口に出来ないのであれば、本物ラクスの言葉のように人々の心に響くことはない、ってことだよね」
 大切なのは、言葉を裏付ける想いなのではないか。キラはそう告げる。
「そうだな」
 確かに、上辺だけの言葉で人の心を掴むことは難しい。
 プラントにいた《ラクス》が人々の支持を集めていたのは、あの姿をしていたから、だろう。
 しかし、とアレックスは眉根を寄せる。
 今回のことで、彼女はその存在価値を失ったのではないか。だとするならば、デュランダルは彼女をどうするのだろう。
 もっとも、それも彼女自身が選んだ選択の結果でしかない。詰めたようだが、それ以外に言いようがない、と言うのも事実だ。
「……それよりも、これでデュランダル議長がどう動くのか……そちらの方が心配だね」
 オーブの国力は、確かに落ちている。
 だが、それでもまだまだ大きな影響力を持っていることは事実だ。
 そして、ラクスの存在はそれ以上にプラントに揺さぶりをかけているのではないか。
 彼女がデュランダルの提案したプランを否定したことで、プラント内部でも離叛しようとするものが出てくる可能性がある。
「取りあえず、ザフトの動きを監視しておいて貰った方がいいのかな?」
 万が一のことを考えれば、とキラはアレックスに視線を向けてきた。
「そうだな……あれを使われたら、アウトだ」
 発射されてしまったら止めようがない。
 アレックスもこう言って頷いてみせる。
「……そうだね。すぐに発進できるように準備もしておかないと」
 キラはこうく地にすると、小さなため息をついた。
「疲れているなら、休んでいていいぞ。その程度の指示なら、俺でも大丈夫だろう」
「ううん。僕の口から言うよ」
 カガリから責任を預かっている以上、当然のことだ。キラはこう言うと歩き出す。
「無理はするなよ」
 そんな彼の後を追いかけながら、アレックスはこう声をかけた。

 ザフトに動きがあった、と連絡があったのは、それから半日ほど経ってからのことだ。
「……廃棄コロニーが、動いている?」
 と言うことは、間違いなくデュランダルはレクイエムを使うつもりなのだ。
「キラ!」
 アレックスの呼びかけに、キラは小さく頷いてみせる。
「……すぐに出撃の準備を……オーブ本土に連絡は?」
 そのまま、マリューへと問いかけた。
「今とっているわ」
 ただ、ジャミングがきついから……と彼女は微かに眉を寄せながら付け加える。
「出来るだけ早く取れるように、お願いします」
 自分たちはあれを止めるために出撃をするから、とキラが口にしたときだ。
「レクイエム発射口から高エネルギー反応が!」
 間に合いません、と叫ぶ声がブリッジ内に届く。
「照準はどこだ!」
 アレックスが怒鳴りつけるように問いかけている。
「……ミラーの角度から考えて……地球上ではないと思われます……」
 今、計算中です、とチャンドラが口にした。
「出たわ!」
 それに被さるようにミリアリアの声が耳に届く。
「地球ではないわ。月面……おそらく、アルザッヘルだと……」
 彼女の言葉に、キラは記憶の中にある月面都市の名前を思い浮かべる。しかし、該当する箇所をすぐには思い出せない。それだけ自分は焦っているのだろうか。そう思ったときだ。
「……地球軍の基地か……」
 アレックスがこう呟く。
「おそらく、見せしめ……だろうな」
 オーブをはじめとする反ディスティニー・プラン勢力への、と彼はさらに言葉を重ねた。
「おそらく、そうでしょうね」
 マリューも、彼の言葉に同意をするように頷いてみせる。
「……だからといって、デスティニー・プランを受け入れるわけにはいかないんだ……」
 自分の未来は自分の意志で選択をしなければいけない。
 生まれたときから進むべき道が決められているというのは、行きながら死んでいることと同意語ではないだろうか。そんな風にも思う。
 もっとも、とキラは少しだけ自嘲の笑みを浮かべた。人の温もりを知らずに生まれてきた自分がそのようなことを言っていいのかどうかはわからないが。
 そんなことを考えていたときだ。
「ラクスさんから通信が入っています。今、モニターに出すわね」
 この言葉に、キラは小さく頷く。そして、視線をモニターへと向けた。