落下が始まる前に、と子供達と共にシェルターに避難を始めた。
「……大丈夫、かな?」
 キラの服の裾を握りしめた子供がこう問いかけてくる。
「大丈夫だよ。ここは、何があっても安全だから」
 それに、自分たちも一緒にいるから……とキラは微笑んでみせた。
「そうですわ。ですから、安心してください」
 ラクスもまたこう告げると微笑む。それだけで周囲の空気から不安が薄れるのは、彼女が彼女だからだろう。
 自分ではこうはできない。
 自分にできたのは、ただ破壊をすることだけ。
 たまたま、自分がラクス達と共にいたからその行為を称賛されていただけだ。
 これが地球軍もしくはザフト、どちらかの陣営に属していたならばどうだっただろう。
「キラ、お兄ちゃん……」
 そんなキラの耳におずおずとした声が届く。視線を向ければ、時々彼に花を持ってきてくれる女の子がこちらを見上げているのがわかった。
「どうしたの?」
 言葉とともにそうっと彼女の体を抱き上げる。
「……大丈夫だよ」
 そう言って、ぎゅっと抱きしめてやった。それだけで彼女はほっとしたような表情を作る。
「僕も……」
 それがうらやましかったのだろうか。
 キラの服を握りしめていた子供もまた抱っこして欲しいというように手を差し伸べてくる。
 二人は辛いかもしれないな。
 でも、期待をされている以上、頑張った方がいいのではないか。
 それに、このような状況だし。
 そう判断をして、キラはもう一人も何とか抱き上げた。
「あらあら」
 その様子にラクスが小さな笑いを漏らす。同時に、キラの行動が呼び水になったのか、他の子供達もわらわらと抱っこをせがんできた。
「取りあえず、座ってからにしましょう。そうすれば、キラも疲れませんわ」
 もっとたくさん、抱きしめてもらえますわよ……と彼女が付け加えたのがよかったのかどうか。他の子供達からも期待の眼差しを向けられてしまう。
「……ラクス……」
 微かな非難の意をこめながらキラは彼女をにらみつける。
「みんな、キラが大好きですものね」
 だが、どうしても彼女に勝てるはずがない。ため息を吐くしかできないキラだった。

 目の前では既に他の隊が破砕の作業を始めているようだ。
「……そういえば……」
 その事実に気が付いた、とわかったのだろうか。デュランダルが声をかけてくる。
「何か?」
 ここで迂闊なことを口走ってはいけない。自分にそう言い聞かせながらカガリは聞き返した。
「姫はディアッカ・エルスマンとは顔見知りでしたね」
 そんな彼女の態度に気が付いているのか。笑みと共に彼はこう問いかけてくる。
「ディアッカとは、一時期一緒にいたからな」
 彼が三隻同盟に加わっていたことは周知の事実だ。だから、それに関しては同意をしても構わないだろう。
「アレックス君も、彼とは顔見知りですか?」
 そちらが聞きたかったのか、とカガリは心の中で呟く。
「いや。知らないはずだ」
 彼が自分の元に来たのは、自分が代表になってからのことだ……と付け加える。
「そうなのですか?」
「あぁ。あまりに私が不甲斐なかったので、マルキオ様が見かねて連れてきてくださったんだ」
 それは嘘ではない。
 実際、アレックス・ディノの経歴を調べればそう出てくるはずだ。
 もちろん、この場ではそれが不可能だと言うことはわかっている。それに、とカガリは心の中で付け加える。彼はきっと、アレックスが別の人間だと信じているのだろう。
「そうですか。マルキオ導師が」
 意味ありげな口調でこう呟く。
 やはり、そうか……とカガリが思ったときだ。
「インパルス、発進シークエンスに入ります」
 CICからの報告が周囲に響く。
「わかりました。レイ達の発進シークエンスも同時に続けさせて」
 今は一刻も惜しいから……とグラディスが指示を出している。
「どうやら、アレックス君も出撃のようですね」
 本当に何を考えているのだろう。それがわからない……とカガリが微かに眉を寄せたときだ。
「ジュール隊から入電。現在、何者かと交戦中だそうです」
 別方向から悲鳴のような声で報告が伝えられる。
「艦長!」
「今更、発進シークエンスを止められないわ。そのまま発進させて」
 当面は、自分たちの判断で対処をするようにと指示を出して……と彼女は続けた。
 その言葉に、カガリは別の意味で眉を寄せる。
 艦長がそれではいけないだろう。少なくとも、無防備な状況で発進をしなくてもすむように、そして何かあった場合すぐにフォローできるようにとしなければいけない。
 そう考えれば、ラミアスは指示はかなり的確だった。経験から言えば、技術士官であった彼女もグラディス達と大差なかっただろうに。
「大丈夫ですよ、姫。アレックス君は有能なのでしょう?」
 カガリの表情をどう受け止めたのか。デュランダルがこう言ってくる。
 その瞬間、何故かはわからないがカガリは彼に対して嫌悪感を抱いてしまった。