「そうか……」
 アスランのMIAの報告に、デュランダルは取りあえずこの一言だけを返す。
「わかった」
 結局、手元に残った剣はシンだけか……とそう心の中で付け加える。
「君達でなければ、誰でも同じ事だがね」
 それでも、レイの友人だったのだ。使い捨ての駒にするつもりはない。そんなことも思う。
「ともかく……これからが正念場、だね」
 側にいて欲しかった共は、既にこの世にはいない。慈しんでいた子供も、生きているのかどうかすらわからない状況だ。
 それでも――いや、だからこそ……とデュランダルは真っ直ぐに前を見つめる。
「私は、私の道を歩かなければ行けない」
 彼等二人だけではない。
 自分は多くのものを失ってきたのだ。せめて、最後に残ったこの希望だけは叶えなければ、何のために生きてきたのかわからないだろう。
「一番の願いは、もう叶えられないのだしね」
 ならば、もう二度と同じようなことが起きないように世界を変えていくしかないのだ。
 そのためであれば、後々、どのような誹りを受けても構わない。
「議長、お時間です」
「あぁ、今行くよ」
 呼びかけられた声を合図に、デュランダルは立ち上がる。
 そのまま歩き出した彼の視界の隅を、ガラスのチェスボードがかすめた。それは、かつて友人達と会話をしながら行っていたもの。だから、今はそれの上に流れるときは止まったままだ。
 その事実を認めたくなくて、デュランダルはそれの存在を強引に意識の外へと追い出した。
 だから、彼は気付くことがなかったのかもしれない。黒のキングがいつの間にか倒れていた、と言う事実に。

 その日、今までとは違う意味の激震が世界に走った。
 デスティニー・プラン。
 デュランダルの口からそれが告知された。
 二度と戦いが起こらない世界。
 確かに、それが実現すれば世界は恒久の平和を手に入れることが出来るだろう。
「……しかし、これは……」
 キラは小さな呟きと共に唇を噛んだ。

「ともかく、大至急、カガリさんと話をしなければいけませんわね」
 放送を聞き終わった後、ラクスは呟くようにこう口にした。
「ラクスさん?」
 何を、とミリアリアが問いかけるように彼女の名を呼んだ。
「そうだね。きっと、カガリはあれに賛同しないだろうね」
 その言葉を遮るように、キラもまた頷いてみせる。
「キラ?」
 どういうことなの、と、ミリアリアは少し怒ったような口調で問いかけた。
「……確かに、普通に聞けばいいことのように聞こえるだろうね。でも……」
 一瞬、キラは辛そうに目を閉じる。だが、すぐに決意の色を滲ませたすみれ色が姿を現す。
「でもね。それは、行きながら死んでいることと同じだよ?」
 自分の生きる道が、生まれたときから決められている。そんな世界で希望を持つことが出来るのだろうか。キラはそう付け加える。
「誰だって、自分が自分の未来を決める権利を持っている。それを、たとえ誰であろうと侵害することは許されないと思うよ、僕は」
 自分自身が選択をしたからこそ、どのような困難だって乗り越えられるのではないか。そうも付け加える。
「言われてみれば、そうね」
 確かに、自分の仕事は自分で選びたいわ……とミリアリアも頷く。
「そうそう。俺だって、いずれはコーヒーショップを……」
 バルトフェルドがそんなセリフを口にしたが、誰も耳を貸す者はいない。
「……いざとなったら、わたくしは地上におりましょう」
 カガリと共にデュランダルのプランに反対の意思を表明するために……とラクスは微笑む。
「ラクス、それは」
「大丈夫ですわ。ただ……その代わりに、キラの負担を増やしてしまうかもしれませんが」
 地上に行けば、おいそれと戻ってくることは難しいだろうから……と彼女は続ける。
「別に、地上に行かなくてもいいだろうがな」
 アレックスは苦笑と共に口を開いた。
「アレックス?」
「必要なのは、お前とカガリが同じ画面にいること、だろう? その位のシステムであれば、俺でも何とか出来るぞ?」
 キラが手を貸してくれれば、もっと早いかもしれないが。そう言いながら、アレックスはキラへと視線を向けた。
「そうだね」
 使えるシステムもあるし……とキラも頷いてみせる。
「わかりました。それに関してもカガリさんと相談をさせていただきますわ」
 ラクスはあっさりと引き下がった。
 おそらく、脳裏でメリットとデメリットを即座に判断をしたのだろう。
「でも、デュランダル議長はわたくしたちがそう判断すると予想しているかもしれませんわね」
 小さなため息とともに彼女はそう付け加える。
「そうだな」
 間違いなく彼は自分たちを排除すべき者だと認定するだろう。
「……まだ、戦争は終わらないんだね……」
 キラが小さな声でこう呟く。そんな彼の肩を、自分たちはそっと抱きしめるしかできなかった。