センサーが近づいてくる機体を捕らえた。
「やはり出てきたか」
 フリーダムでないのは少し残念だが、その代わりに自分の偽物あいつとの決着を付けられる。それでよしとしようか。
「むしろ、その方が都合がいいな」
 キラだって、あれがいなくなれば目が覚めるに決まっている。
 だから、とアスランはうっそりと嗤う。
「さっさと退場してくれ」
 この世から、とそう付け加える。
 その瞬間、アスランの脳裏からは既にラクスのことは消え去っていた。
 いや、周囲の状況が、と言うべきかもしれない。
「自分で出来ないというのであれば……俺が引導を渡してやる!」
 この叫びとともに、彼は真っ直ぐにジャッジメントをインフィニットジャスティスへと突進させた。

 もちろん、アレックスはアスランのその動きに気付いていた。
「バカだろ、お前は」
 思わず、こう呟いてしまう。
 ザフトが優勢に事を進めていたのは、アスランが乗り込んでいる機体の存在が大きい。他のパイロットの実力など、バルトフェルト達の足元にも及ばない。
 本来であれば自分の相手を他の連中にさせ、その間にエターナルを掌握した方がいいのだ。そうすれば、自分をはじめとした者達は、どうしても引き下がらざるを得ない。
 しかし、アスランは自分でアレックスを迎え撃つという選択をした。
 逆に言えば、それはバルトフェルド達に余裕を与えることになる。自分は、彼等が他の機体を動作不能に持ち込むまで、アスランを惹きつけておけばいい。
「いくらあいつでも、五対一では勝ち目がないだろうからな」
 アスランと自分の実力はほぼ互角。
 それにバルトフェルドの協力があれば、自分の方が有利になる。
「自分だけで全てを解決しようとしているから、そう言うことになるんだよ、お前は!」
 いや、他人の言葉に耳を傾けないこと、と言い直すべきか。
 彼が受け入れるのは自分にとって都合がいいことだけ。
 そういう状況でどういう人間が出来るのか、いい見本ではないだろうか。
「……やっぱり、誰かにしつけ直してもらわないといけないか」
 その時には、絶対、自分だけではなくキラも関わらせる予定がないが。もちろん、他の連中だってそんな危険なことはさせないだろうとわかっている。しかし、その時には責任を押しつけあうだろうな、と小さな笑いを漏らした。
「カガリの所に送り付けるよりは、ラクスに見張らせておいた方がいいのか?」
 どちらにしても、あれを捕縛するなりなんなりしてからでなければ意味がない。
 戦場では『絶対』はないのだ。
 それがわかっているからこそ、気を引き締めなければいけない。
「……俺は『無事に帰る』とキラに約束をしたんだ!」
 だから、とアレックスは表情を引き締める。
 そして、アスランの機体をにらみつけた。

 同じ頃、ミネルバには別の情報が届いていた。
「本当にジブリールが乗っているのね?」
 グラディスが確認の言葉を投げつける。
「確定とは言えません。ただ、よく似た人物がブリッジにいるのを先発隊が確認しています」
 それならば、確かに叩いておいた方がいい。もし、本人だとするならば、ここで見逃すわけにはいかないのだ。
「……アスランは、まだ戻ってないのね?」
 デュランダルの命令でエターナル捕縛に出かけたが、とアーサーに問いかける。
「現在、交戦中だそうです。呼び戻すのは難しいかと」
 下手に撤退をさせれば、逆に撃墜される可能性がある。エターナルに乗り込んでいるパイロット達の実力を考えれば、十分にある得る話だ、とグラディスも頷いてみせる。
「わかったわ。シンとルナマリアに大至急発進の準備をさせて」
 多少の不安は残るが、彼等だってそれなりの経験を積んできているのだ。任せるしかないだろう。
「はい!」
 即座にメイリンが二人に指示を伝えている。
 その後ろ姿を見つめながら、ここにもし、レイがいてくれたら自分は不安を感じていただろうか、と心の中だけで自分に問いかけた。
 いや、それだけではない。
 彼に関しても、ここまで性急にことを進めようとしただろうか……とそんなことも考えてしまう。
「……貴方は、世界を混乱に陥れたいのかしら?」
 そう呟く声は、周囲の者達には聞こえなかったようだ。それは幸いだったのか。グラディス本人にもわからなかった。

 ジブリールが乗り込んでいたガーティー・ルーがデスティニーによって撃墜されたのは、それからしばらくしてのことだった。

 同じ頃、アレックスとアスランの戦いにも決着が付いていた。
 予想通り、と言うべきだろうか。それはアレックスが一人で勝ち取れた勝利ではなかった。
「……すみません、バルトフェルド隊長」
 すぐ側に来た彼に向かって、アレックスは回線越しに沿う声をかける。
『気にしなくていい。お前を失う方が厄介だからな』
 キラのためにも、と言われなくてもわかった。
『同じ意味で、それを殺すわけにもいかなかったし』
 殺すことを厭わなければ、もっと早くに決着が付いていたのではないか。彼は言外にそう付け加える。
「どうでしょうね」
 アスランが頭に血が上った状態だったからこそ、何とかなっていた……と言う可能性もあるのだ。自分の実力を、そこまで過信していない。
『まぁ、いい。これは俺たちの方で抑えておく』
 お前はそのままエターナルの護衛を頼む……とバルトフェルドは付け加えた。
「了解」
 アレックスがそう言って笑ったときだ。
『ジブリールが死亡したそうです!』
 エターナルから慌てたように報告が飛んでくる。
『と言うことは……このままプラントが引き下がるか、それとも次の狙いはオーブになるか……確認をしなければいけないだろうな』
 バルトフェルドの言葉が、重く響いた。